「蛇山議員の一番上の子が養子であることは?」
「聴取済みです。近隣の住人に聴取も行いましたが、仲が良い家族、息子は優秀でいい子という言葉が殆どでした」
汐里は向かいに座る久寿に聴取で聞いた話をしつつも、久寿の隣でムッツリと不貞腐れる一颯を見る。
久寿と並んで高そうなソファーに座っているのを見ると、やはり育ちの良さが感じられる雰囲気を一颯は持っていた。
刑事等という泥臭い仕事よりも、人の上で国を支えている方が合っているようにも見えたが、本人はそれを拒んでいるのであまり言うことはない。
「……浅川さん、めっちゃ貴族みたいですね」
「ボンボンだからな」
「コソコソ話すなら俺に聞こえないように話してくれますかね?」
汐里と瀬戸は一颯に睨まれ、咳払いする。
すると、久寿が「……噂はあくまでも噂か」とポツリと呟く。
それを一颯が聞き逃さなかった。
「父さん、噂って?」
「いやな、蛇山議員とその妻が養子として引き取った長男に虐待してるって噂が一時期流れてたんだ」
「虐待……?」
「あくまで噂、だ。本人や長男に聴取したら否定したから深くは追求しなかった」
その噂が流れたのは数年前のことだという。
その間やその後、蛇山は長男を血が繋がらないながらも後継としてパーティーに連れてきてらしい。
虐待をしている養子を後継として連れ歩くとは思えなかった。
一颯は昔父によく連れられてパーティーに出ていたことを思い出し、げんなりする。
「政治家のパーティーは後継を見せびらかすみたいで嫌いだったんだよな」
「……見せびらかしたが、お前は俺の跡を継がないけどな」
「それに関しては申し訳ないとは思ってる」
「まあ、政治家としては息子が継いでくれないのはガッカリだが、父としては息子が自らの道を見つけて進んでるのは嬉しいから構わん」
久寿は一颯の頭を撫でる。
久々に頭を撫でられた気がしたが、さすがに汐里や瀬戸の目もあり、恥ずかしさを感じた一颯は俯く。
その親子のやり取りに瀬戸はにやにやと笑っていたが、汐里は何かを考えているような様子だった。
そして、何か思い付いたようにはっと顔を上げて、一颯を見た。
「浅川、お前は《東雲》に戻れ」
「……は?」
汐里の言葉に、一颯はポカンと口を開けるのだった。