「俺は仕事で此処に来たんだ!パーティーには――いだだだ!」
そう、一颯は仕事で此処に来たのだ。
そう訴えようとしたが、雅が彼に近づくなり、耳を掴んで引っ張る。
母というものは我が子には手加減しない、というのは万国共通なのだろうか。
雅の行動に汐里と瀬戸は自分の母のことを思い出し、背筋を震わせた。
「一颯、貴方仕事仕事って言って全然パーティーに参加しないじゃないの!東雲の長男がそんなで良いと思ってるの!?」
「俺は政治家にならないって言って、父さんも納得しただろ!?俺は刑事なの!」
「そんなこと分かってるわよ!母さんが言ってるのは月一回くらいは実家に顔出しなさいってことよ!」
「そんなこと一言も言ってない!前の音声、誰か録音してない!?」
母の理不尽な言葉の応酬に、一颯は普段はあまり出さない大声を出している。
さすがの汐里もそんな一颯を見たのは初めてなので、驚いているようだった。
そんな親子の会話に、親子の夫であり父である久寿は呆れ顔だ。
ふと、久寿と汐里の視線が合う。
「君は一颯の相棒の……」
「お初にお目にかかります、京汐里と申します。こっちは瀬戸司です」
「固くならないでくれ。初めまして、一颯の父です。まあ、知っているとは思うが」
久寿は普段テレビで見る固い印象とは違った柔らかな笑みを浮かべる。
その笑みが一颯に似ている、と汐里は感じた。
一颯は顔立ちは母の雅に似ているが、笑みは父の久寿に似ている。
「一颯と雅は放っておいて、私に亡くなった蛇山議員のことを聞きに来たんだろう?」
「はい。申し訳ありませんが、お話をお聞きしても?」
「ああ。未希、二人にお茶を。どうぞ、こっちに」
久寿は止まらない一颯と雅の親子喧嘩にオロオロする未希にそう声をかけて、汐里と瀬戸を応接室へ連れていく。
どうやら、親子喧嘩はいつものことらしい。
未希がお茶を持ってくるのと時同じくして、一颯が応接室にやって来た。
頭にでっかいたんこぶを乗っけて。