「それで、椎名さん達は何故此処に?」





「最近放火事件が多いから張り込みしてたんだよ。そしたら、サイレンの音がして来てみたらコレだ」






椎名の視線は燃え盛る住宅への向けられる。
すると、女性の叫び声とそれを宥める少年と消防隊の声がする。
何事かと一颯は近くにいた警察官に声をかけ、事情を尋ねた。





「どうしたんですか?」





「この住宅の住人の女性なのですが、中にご主人とお子さん二人が取り残されているようで……」






「嘘だろ……」






住宅は完全に炎に包まれ、いつ崩れ落ちるか分からないほど。
話によれば、女性の夫は取り残された子供二人を助けに中に戻っていたという。
防炎が施された服を着た消防隊ですら炎の中に入るのがやっとだというのに、生身の人間が中に踏み込んだとなれば――。







「早く!早く助けて!あの中に主人と子供が……ッ!」





「母さん!落ち着けって!」





女性の叫び声が虚しく響き渡る。
この炎では助けに踏み込んだところで踏み込んだ者も中にいる者も只では済まないだろう。
助けにいけないとはもどかしい。
一颯は唇を噛み締めながら炎を見つめていた。




それから数時間後。
隣接する住宅二軒の壁を焼くなど延焼はあったものの、住宅の火災は鎮火した。
だが、火災が発生した住宅の中から性別不明の大人の遺体と二人の未就学児程の子供の遺体が発見された。
恐らく、子供二人を助けに中に戻っていた父親と子供二人だろう。




一颯はビニールシートで覆われた担架に乗せられて運ばれていく遺体を目にし、手を合わせる。
二年前にも似た光景を目にしているが、慣れる気がしない。
ふと、一颯は煤で汚れた住宅の塀の前に立つ汐里を見つけた。





「京さん?」





一颯は汐里に駆け寄り、彼女が見つめる先を見た。
そして、目を見開く。
先輩二人が何か見ているのに気付いた瀬戸も駆け寄ってきて、塀を見て息を飲む。
塀には蛇の絵と《invidia》の文字が赤いペンキで書かれていた。




「《invidia》……?」





ラテン語で嫉妬を意味する。
一颯は直感的に感じた。
再び《七つの大罪》が犯罪を犯していると。
一颯は隣にいる汐里をちらりと見、息を飲む。
塀を睨む汐里は怒りに満ちていた。
まるで、燃え盛る炎のような怒りだった。