草木も眠る丑三つ時。
外から救急車やら消防車のサイレンが騒がしいほどに聞こえた。




「んぅ……?」






一颯はのっそりと起き上がる。
身体が痛いのは床で寝たせいだ。
ベッドでちゃんと寝れば良かったと思うが、他の人に申し訳ない。
一颯は寝ぼけているせいか、人の家で勝手に宴会を始めた奴らに申し訳なく思うのはおかしいことに気付いていない。
ちなみに奴らとは《奴ら》である。





「外がうるさいな……」






一颯は回らない頭で周りを見渡す。
酒の缶やら瓶、惣菜のパックやらつまみの袋がテーブルや床に散乱している。
そして、ソファーには汐里が、床には瀬戸が酔い潰れて眠っていた。






「官舎出たのが間違いだったな……」






一颯はこの春から官舎を出て、署の近くにマンションを借りた。
オートロックのデザイナーズマンション。
メゾネットタイプで、ワンルームと唱っていながらも広いロフトのお陰で寝室と生活空間を分けられ、吹き抜けがあるので広く見える。






官舎にいた頃は署の人間が多くいたため、あまり汐里達も寄り付かなかった。
飲むとなれば、署の近くの居酒屋に行っていたということもある。
だが、今は居酒屋で飲むより宅飲みの方が楽だということに汐里達が気付き、そのせいで一颯の家が溜まり場になりつつあった。






「まったく、事件の捜査の合間の休暇を飲み会で潰すなんて馬鹿なのかな……」






酒が飲めない一颯には飲み会の楽しさは飲める人と違い、美味しいご飯を食べるのが楽しみでしかない。
だが、宅飲みとなれば、飲めない一颯は後片付けに追われる。
折角の休日が同僚達の飲み会の後片付けで終わりそうだった。
等と呑気に考えていたが、はっと我に返る。





「消防車のサイレン!外!」





一颯は飛び上がり、ベランダに出て外を見た。
驚くことに彼が住むマンションの道路を挟んだ向かいにある住宅が燃えていた。
下を見れば、何台もの消防車に加え、救急車と野次馬が集まっているのが見える。





「騒がしいな……」




のっそりと起きてきたのは汐里で、眠たそうに目を擦っていた。
だが、ベランダに来て火事を目にして、ベランダから身を乗り出す。
酔っているから落ちかねない、と一颯は汐里を隣で支えた。