「裏切ったから殺したってどういう意味だ?」





「震えてるわね。裏切った、その言葉の意味のままよ。死んだ二人に限らず、これまでに起きた何件かの殺人事件は私が唆したり、私が行ったものよ。……皆、私の情欲の相手なの」





色島は恍惚とした表情を浮かべていた。
何に対しての恍惚とした表情なのかは知りたくもない。
色欲、という名前を貰うだけあってそちらに関して多感なのかもしれない。





「情欲の相手が裏切ったら殺すのか?」






「そうよ。私で満足できないなんて信じれない。他の女に行こうとしたから殺したの。でも、才賀や片山を殺したのは警察に行こうとしたからだけど」






もしかしたら、今まで殺された男は他の女に行こうとしたのではなく、色島の犯罪組織の幹部という裏の顔を見て逃げそうとしたのかもしれない。
だが、裏の顔を見つけてからでは遅いのだ。
色島に、《七つの大罪》の《色欲》に出逢ったことが間違いだったのだ。






「俺も殺すのか……?」






「んー、どうしようかな。貴方はちょっと抜けてるけど、警察の人間だからね。……スパイとして生かしておこうかな?」






彼女の言葉に、瀬戸は息を飲む。
スパイとして警察の中を暗躍すれば、死ぬことはない。
断れば此処で死ぬことになる。
場合によってはスパイをしていても何か失態を犯せば、殺されるかもしれない。
だが、瀬戸は答えが決まっていた。






「……分かった」





「スパイとして働いてくれるの?」






「此処で殺せ。俺は犯罪者に手を貸してまで生き永らえるつもりはない」






嬉々としていた色島の顔から笑みが消える。
肌を刺すような殺気が瀬戸の身体を包み込み、瀬戸は身体を強張らせた。
それでも、彼の意志は曲がらない。






「俺の正義は刑事であり続けることだ!犯罪者に手を貸して続ける刑事に正義なんて貫けるか!」






瀬戸は色島からハンドルを奪い取ろうと身を乗り出す。
その瞬間、前方の脇道から車が飛び出してきた。
避ける間もなく、その車に瀬戸達が乗る車が突っ込む。
突っ込んだ一瞬だが、衝突した車の運転手と助手席に乗る人の姿が見え、瀬戸の目の前が涙で滲む。