「おい、今の何だよ!?何で京太志がいるんだ?司馬課長は!?」







捲し立てるように言う赤星を無視して、汐里は二階堂に近付いた。
そして、大きく手を振り上げたかと思えば、思い切りその頬を張り倒した。
かなり痛そうな音に、周りにいた椎名達は顔を青くする。






「痛!何するんだ――ッ!」







口の端が切れ、血が出た所を拭いながら抗議する二階堂の胸ぐらを汐里は掴み上げた。
彼女の目には怒りが込められている。
それに気付いた二階堂は小さく息を吐くなり、頭を掻いた。






「京警視に頼まれたんだよ。ハッキングやら何やらの違法捜査は目を瞑るから協力しろって。んで、お前には言うなって口止めもされた」






「何で?」





「お前は良くも悪くも目立つからな。それに、京警視が言わなくても薄々感じて独自に調べてるだろうから放っておけって」







「……あのクソ兄貴に見抜かれてるとか腹立つ」





汐里は二階堂の胸ぐらを離すと、持ってたハンカチを彼に渡した。
さすがに感情に任せて殴ったことが申し訳なかったらしく、「殴ってごめん」と素直に謝っていた。
素直な汐里にも驚くが、何より汐里が秘密裏に京太志の死や神室との関係を調べていたことに一颯は驚きだった。






二年間相棒をしていて、彼女が一颯にそんな素振りを見せたことはなかった。
彼女は誰にも言うことなく、一人でこの事を調べていた。
知らなかったとはいえ、汐里は信じたくない真実を一人で抱え込んでいた。
一颯は汐里に近付くと、肩を掴んで自分の方を向かせた。





「浅川、何だ?」






「何だ、じゃないですよ。何で言ってくれなかったんですか。何で一人で抱え込んでいたんですか」





「確信じゃなかった。それに、お父さんに憧れていたお前に話すのは酷なことだと思った。さすがの私でもお前に尊敬する刑事が犯罪に荷担しているなんて言えないよ」






「それで一人で抱え込んでいたんですか?馬鹿ですか?」






「は?」






汐里の声が一段と低くなる。
周りにいた椎名や赤星、瀬戸は「ヤバい」と悟り、二階堂は巻き込まれる前に逃げようとした。
だが、赤星に「逃げるな、お前も当事者だろ」と捕獲され、それは叶わなかった。





「俺、とばっちり食うのやなんだけど」






「大丈夫だって、多分。今からが面白いんだから見てろよ」






付き合いの長い赤星達には分かる。
恐らく二階堂にとばっちりが来るとしたら一通りのことが終わってからだ。
だが、そのとばっちりが嫌だからと逃げるにはまだ早すぎる。
言葉の通り今からが面白いからである。