「何故、こんなことを?」
一颯は震える声で太志に問いかける。
「君が俺に憧れて刑事になるとは思わなかった。それに、あんなに小さかった子が立派になったものだな」
「はぐらかさないで下さい!貴方が死んだと偽ったことで、悲しんだ人がいるんですよ!?何故、こんなこと――」
「……刑事という仕事は犯罪と関わりながら生きてる。その中で嫌でも人の醜い部分が見えてくる。一般人や犯人だけじゃない、警察内部の人間からも」
ごく稀に警察官が犯罪に関わりすぎたことによって、犯罪を犯してしまう場合がある。
現にそれが目の前で起きてしまっている。
太志が神室と何らかの関係があった証拠は恐らく氷室達が掴んでいるのだろう。
もし、これまでの神室の行いが太志の命令だったのであれば、太志の罪は重い。
「警察は正義じゃない。それに気付いた時、俺は刑事であることをやめた」
「神室とはどういう関係?」
「彼はある意味被害者だ。警察官としてのあり方に疑問を持った俺の遺志を汲んだかのように犯罪組織を作った。……そのせいで、悪いことは全部彼に背負わせてしまったがな」
太志は汐里の問いに答えると、両手を前に差し出した。
意味を理解したのは氷室で、太志に近付くとその手首に手錠をかけた。
――カシャン。
そんな小さな音がやけに大きく聞こえ、一颯は唇を噛み締めた。
「父さん、貴方を逮捕するのは色々と面倒なことだ。何せ、貴方は戸籍上死んだ人間だからな。よって、公には全て神室と七つの大罪の仕業いうことにする」
「それ、違法じゃないのか?」
「刑事であることをやめた父さんに言われる筋合いはない。ただでさえ、警察は何処かの署長とその子供達が七つの大罪と癒着していた不祥事があるんだ、これ以上警察の信用を落とすわけにはいかない」
侑吾は太志を睨み付けると、汐里の方を見た。
父のことを尊敬しながらも心の何処かで生きている、何かを企んでいると疑い続けていた汐里。
それを誰に相談するわけでもなく、ずっと一人で抱え続けていた。
組織ぐるみで父のことを調べていた侑吾とは違い、苦しかったに違いない。
「父さん、貴方には何らかの形で罪を償ってもらうからな。……汐里がどれだけ苦しんだか思い知らせてやる」
侑吾は一颯を一瞥すると、氷室と篁に太志を連れてくるように命じて歩き出した。
太志は汐里の方を見ることなく、氷室と篁に連れられて課長室を出ていく。
それと入れ違うかのように、椎名と赤星、瀬戸と二階堂が課長室に雪崩れ込んでいた。