「やっと来たか」





そう言って捜査一課課長室から出迎えてくれたのは司馬だ。
司馬は汐里達の上司であり、京兄妹の母方の叔父でもある。
そして、今回侑吾が逮捕するべきと踏んだ男だ。






「待ちくたびれたよ。なかなか私の元へ来ないから気を揉んだよ」






司馬はわざとらしく「あー肩が凝ったー」と肩を揉んでいる。
一颯は道中の車の中で真実を聞かされ、目の前で起きている真実をまだ信じられなかった。
捜査一課の課長である司馬が七つの大罪の神室志童までもを操っていた黒幕であることが。





「何故ですか、司馬課長?」





「ん?それは――」






「……アンタは捜査一課課長の司馬でも、私達の叔父でもない。いい加減下手な演技は終わりにしてよ、お父さん」







汐里の言葉に、一颯は更に信じられなくなる。
今彼女が口にした人物は十年以上前に殉職している刑事であり、京兄妹の父親。
此処にいるはずのない人物だ。
すると、司馬は口角を上げて笑うと、頬骨の辺りに触れて、何かを剥がした。
剥がされた下からは司馬とは違う人物の顔が現れる。






「大きくなったな、侑吾。汐里」






そこには死んだはずの京兄妹の父親、京太志がいた。
我が子を見つめる太志の顔は父親のそれで、穏やかな顔の中にある凛々しさは一颯が幼い頃に助けられ、憧れた刑事のそれでもあった。
何故、太志が生きているのか――。






「父さんはシワが増えたな。あと、白髪」






「確かに。私達が大きくなれば、お父さんも老けるよね」





珍しく汐里と侑吾は楽しげに話している。
普段なら信じられないことだ。
ただ、汐里と侑吾の楽しげなのは声だけで、目は笑っていない。
二人の目は太志を睨み、怒りと悲しみが入り交じっていた。






「……いつから俺が生きていると?」






「父さんが殉職したって話を聞いてから。普通怪しむだろ、刺殺されたはずの父さんの遺体が火葬されて家族に引き渡されるなんて」





「お母さんも疑問を感じてはいただろうね。でも、その疑問を口にしなかった。何故だと思う?」






「……俺が琴子に全てを話した上で死んだことにしたから」






「そう。ついでに言えば、叔父さんもグルだよね?何処にいるの?」






「アイツの家族に関してはよく会ってるだろう?アイツも普通に生きてる」






太志はそれ以上何も言わない。
汐里は父が考えてることが分からなかった。
何故死んだと偽り、周りを巻き込んでまでこんなことをしたのか。
それは一颯にも言えたこと。
太志に憧れて刑事になった一颯にとって、この事実は受け入れ難い。