「神室志童が死んだか」





部下からの連絡で神室の自死を知った侑吾は手短に部下との話を終え、スマートフォンをしまった。
そして、目の前の男の方を見た。
男は侑吾の協力者として動いてくれていた人物で、妹の相棒の父親でもある。
侑吾は男――久寿に近付くと、肩をトントンと叩く。






「そろそろ演技は終わりにして起きてください」





「バレていたのか。と言っても、目覚めたのはついさっきだがな」






久寿はパチリと目を開けると、傷のある腹の痛みに顔をしかめつつもゆっくり身体を起こした。
何日も目を覚まさなかった久寿だが、ようやく目を覚ました。






「それで、結末は?」





「貴方の思った通りです。神室は久宝を殺害後、自殺しました。――何も語ることなく」






「そうか。一颯達は確信には近付けなかったか」






「はい。では、お約束通りご子息が神室を生きて逮捕出来なかったようなので、本当の手柄はうちで頂きます」






「ああ。――ちゃんと捕まえてくれよ、真犯人を」






侑吾は久寿に頭を下げると病室を出た。
出た先には氷室と篁がいて、彼の指示が出ればすぐにでも動ける状態だった。





「京警視、手筈は整ってます」





「ああ。行くぞ」





侑吾は氷室と篁を率いて廊下を歩き出した。
向かうのはとある所轄の捜査一課。
そこは妹が籍を置き、母方の叔父が課長を勤める所。
そして、永きに渡って警察や世の中を苦しめた人物が存在する場所だ。





ふと、侑吾は病院の正面玄関に見慣れた二つの影を見つけた。
その二つの影は神室志童という凶悪犯に仕立て上げられた不運な青年の最期を看取った二人だった。
二つの影、一颯と汐里は侑吾の姿を見つけるなり、詰め寄った。





「いい加減我慢ならない。私達も同行させてもらう」






「構わない。だが、邪魔だけはするな」






「邪魔なんてしない。あの人は裁かれるべきなんだから」






汐里は恐らく確信はしていない。
今、侑吾達が逮捕しようとしている人物は彼女達が上司として慕っている刑事だ。
だが、その慕われている姿でさえも真実ではない。
偽りの中の真実はあまりにも残酷なものなのだ。