「かむ――」






「――人間って面白いよね」





神室は引き金にかけられた指に力を込める。
一颯と汐里が駆け出し、神室を止めようとするが遅かった。
パァン、という破裂音と共に神室の身体は崩れるようにして床に倒れた。





「神室!」





一颯が神室を抱き起こすが、こめかみを撃ち抜いており、即死だった。
神室は最期まで謎が多い男だった。
あれだけ人の命を軽視していた男は己の命でさえも軽視していたようだ。
罪を償わせようと思っていたのに、神室は自ら命を絶った。
それは神室を追い続けていた一颯達が望んだ結末とは違っていた。






「あれだけのことをしておいて、罪を償わずに死ぬなんて……」






汐里は既に息のない神室を一颯から奪い、の胸ぐらを掴み上げた。
もしかしたら、神室にとって死こそが償いだったのかもしれない。
死んで、罪を償う。
だが、そんなことをしたところで神室がしてきたことが許されるわけでも、死んだ人が戻ってくる訳でもない。





ふと、神室のシャツの胸元から一枚の紙切れが落ちてきた。
一颯はそれを拾って、紙切れが何なのか確認した。
そして、複雑な気持ちになった。
神室はどんな気持ちでこの紙切れを、写真を持っていたのだろうか?







「どうした?」






「これ……」






一颯は拾った写真を汐里に見せた。
見せられた汐里も写真に戸惑いを見せ、顔を歪めた。
今にも泣いてしまいそうな程に。
神室が胸元に入れていた一枚の写真は大切にしていたのだと、肌身離さず持っていたのだと見て分かるほどくしゃくしゃになっていた。





「何でこんな写真持ってるんだよ……」






汐里の頬に涙が伝う。
神室が持っていた写真に映るのは一人の青いシャツを着た警察官と幼い少年。
それは警察官になったばかりの若い頃の太志と幼い頃の神室だった。
二人とも笑顔で、この頃の太志はこの少年に殺されるとも思っていないだろうし、神室もこの警察官を殺すとは思っていなかっただろう。





神室が何をしたかったのかは分からない。
ただ一つ分かったこと。
それは神室は太志を慕っていたということ。
そうでなければ、この写真を大切にしていないだろう。
だが、何故殺したのかが分からない。
神室が死んだ以上、それは永久に分かることない謎になってしまった――。