「「っ!?」」
一颯と汐里は言葉を失う。
赤が散った先にはその場に膝をついた神室がいて、首からは鮮血が溢れていた。
神室は自分で自分の首をナイフで切ったのだ。
理由は分からない。
ただ、自ら首を切った彼の顔は酷く穏やかだった。
「何で首を切った……って顔、してるね……。最初からこのつもりだったからだよ……」
「最初から?」
「そう、京太志を殺したあの日から」
意味が分からなかった。
神室が汐里の父、太志を殺したのはもう十年以上も前。
そんなに前からこの結末は決まっていた。
この十年以上の間に起きたことが全て神室の思惑通りだったということだ。
いや、違う。
神室がこうなるように仕向けたのだ。
「お前の目的は何だったんだ?」
一颯の声が震える。
それが驚きから来るものなのか、恐怖から来るものなのか、それとも怒りから来るものなのかは一颯には分からない。
ただ、分かるのは一颯や汐里、その他大勢の人々はこの結末を迎えるために用意された神室の駒に過ぎなかった、ということ。
目的は何だったのだろう。
この結末を迎えたかった理由は何だったのだろう。
目的や理由があるなら知りたかった。
だが、神室は答えることなく、穏やかに笑っているだけだった。
それに業を煮やした一颯は答えようとしない神室に近付いて、首の傷を脱いだ上着でつよく押さえて止血する。
「お前は俺や京さん、誰かの大切な人を奪った。罪を犯さずに済んだ人を唆して、罪を犯させた。お前がしたことは許せない。此処で死んで楽なんかさせるか。生きて、罪を――」
すると、一颯の身体を神室が強く押した。
その拍子に止血していた手が離れ、血を吸って重くなった上着が床に落ちる。
急に押されて体勢を崩した一颯はたたらを踏んで、尻餅をつく。
慌てて立ち上がろうとした一颯は目の前の光景に再び言葉を失う。
「前も言ったけど、罪を犯したのは自己責任だよ。本能に負けた、それだけだ」
神室の手にはナイフではなく、拳銃が握られていた。
一颯や汐里のものではない。
神室自身が用意していたものだ。
拳銃は神室自身のこめかみへと当てられている。
首からの出血を放っておいても危険だというのに、こめかみを撃ち抜けば――。