「なっ!?」
「っ!?」
――が、それは杞憂に終わる。
目の前の光景が信じられず教会の扉を開け放ち、一颯と汐里は絶句する。
教会の象徴とも取れる色鮮やかなステンドグラスに、祭壇の中心に置かれたマリア像。
そして、祭壇には血だらけの久宝が寝かされていた。
一颯と汐里は辺りを警戒しながら久宝が寝かされた祭壇へと駆け寄る。
汐里が血まみれの久宝の手首に触れ、脈を確認するが感じられなかった。
ただ、まだ体温が感じられるので、殺されてから然程時間は経っていない。
恐らく殺したのは神室で、教会に姿を消した直後辺りで久宝を殺したのだろう。
ふと、一颯が祭壇の影に下に降りるための階段を見つけた。
「京さん、これ!」
「階段……?」
汐里が覗き込むと、ふわりと下から風が上がってきた。
風に乗って微かに血の匂いがする。
一颯と汐里は顔を見合わせて頷き、ホルスターの中の拳銃に手をかけた。
そして、拳銃を手に、下へと降りていく。
階段は然程長くなく、すぐに洋風な広間になった。
ただ、降りた先には奇妙な光景が広がっていた。
「何だ、この絵は?」
一颯は階段を降りた先にあった広間に飾られた絵に顔をしかめる。
絵は全部で九枚。
どれも何処か無気味で、かつ妖艶だった。
誰が描いたのかは分からない。
ただ、目を惹く。
色違いの階段を登って金と銀の鍵を手にドアを開けようとする男女。
重い石を背負って膝を折り曲げた男。
目を縫い付けられた少年。
煙が上がる火の中で祈る男。
ひたすら走り回る少年。
体を地に伏せて泣き叫ぶ男達。
目の前のリンゴに向か女って手を伸ばしながらも掴もうとしない。
駆け寄りながら両手を広げる女。
そして、花園の中で笑い合う人々。
「どう?僕の描いた絵は?」
突然聞こえた神室の声に、一颯と汐里は拳銃を声がした方へと向けた。
そこには神室がいて、手には久宝を殺したであろうナイフが握られていた。
この九枚の絵は神室が描いたもの。
神室にこんな才能があったことに驚きつつ、一颯は深呼吸をする。
「上にあった久宝の遺体、あれはお前の仕業か?」
「そうだよ」
相変わらず抑揚ない単調的な声だった。
今なら久宝の殺人の容疑で、現行犯逮捕出来る。
だが、神室は大人しく捕まるような奴ではない。
大人しく捕まるようならば、とっくに捕まえている。