「とりあえず、お前は今何処にいるんだ?あと、近くに京さんもいるからスピーカーにするぞ」
一颯は既に荒ぶりかけている汐里を宥めつつ、通話をスピーカーに切り替えて瀬戸に居場所を問いかける。
脱走したとなれば、既に彼を探し出すために警官達が動き出しているはずだ。
だが、彼を逃がしたのは公安である氷室と解析班の二階堂。
何かと細工がされて、発見が難航しそうな予感がした。
『父に教えてもらった七つの大罪の本拠地に向かってます』
「七つの大罪の本拠地?」
「何処にあるんだ!?俺達もそこに向かう!」
『前に憤怒の逮捕のために訪れた教会です。彼処の地下が数ある七つの大罪の本拠地だったんです』
一颯と汐里は顔を見合わせると弾かれたように駆け出した。
目の前を歩いていた神室の姿は当に消えていた。
追っているうちにたどり着いた場所に。
瀬戸の言う七つの大罪の本拠地の教会に――。
『浅川さん達は今何処に?めっちゃ走ってませんでした?』
「……お前が言ってる教会の前にいる」
『は?ちょっ待ってください!今、氷室さん達とそっちに――』
一颯は通話を切ると、スマートフォンをポケットにしまう。
瀬戸は氷室達とこちらへ向かうと言いかけていた。
増援は期待できる。
だが、彼らがたどり着くのを待っていたら、神室を取り逃がすかもしれない。
それだけは避けたい。
「増援は来るな?」
「はい。ですが、待っていられませんよね」
「ああ。――行くぞ」
二人は神室が消えた教会の中を慎重に覗き込む。
七つの大罪の憤怒、猿渡が神父として開いていた教会には孤児院が併設されていた。
だが、そこは猿渡の逮捕と同時に閉鎖され、そこにいた子供達は違う孤児院へと移された。
よって、今この教会に人はいない。
仮に神室が最悪な事態を引き起こしても被害に遭う民間人はいない。
それなのに、埃が被った教会の床には二つの足跡があった。
二つとも新しいもので、一つは入るところを目撃している神室のものに間違いない。
もう一つは恐らく、久宝の物だろう。
公安から逃亡し、逃げ込むなら七つの大罪の本拠地であるこの場所の可能性は高い。
神室と久宝の合流は一颯達が避けたかった事態だったが、もう避けては通れないようだ。