一颯は汐里の後を追いかけ、神室が向かった方へと急ぐ。
すると、すぐに前方に神室と思わしき背中を見つけた。
神室はゆったりとした足取りで歩いている。
まるで、一颯達が簡単に追いついて来れるようにわざとそうしているのではないかと錯覚するほどに。





すると、一颯のスマートフォンに着信が入った。
ディスプレイには公衆電話と表示されており、出るべきか悩んだ。
だが、汐里に「出ろ」と言われて、極力声を押さえて電話に出た。





「もしもし」






『浅川さん、俺です。瀬戸です』






「瀬戸?何でお前、拘留中じゃ……」







電話を寄越したのは瀬戸だった。
彼は今、父と妹の七つの大罪への関与と自身の七つの大罪への情報漏洩で拘留されているはずだ。
それなのにも関わらず、瀬戸は公衆電話を使って一颯に連絡を寄越している。
つまり――。






『すみません、聴取を取るのに出された際に脱走しました』






「脱走!?」






一颯の声に、汐里の険しくなる。
拘留中に、取り調べの際に脱走するなどとんでもないことを瀬戸は仕出かした。
それ以前に久宝の逃走といい、瀬戸の脱走といい、公安はどんな警備の仕方をしているのだろうか。
そう思ったのは一颯だけではないらしく。





「公安の警備はザルか。久宝は未だしも、瀬戸に突破されるなんて……」






と会話の流れを察した汐里も呆れていた。
だが、公安の警備がこんなにザルな訳がない。
こんなにザルだったら、テロリスト達を相手に潜入捜査や捜査を行うことは出来ない。
考えたくはないが、こう考えざる負えない。
――公安が≪敢えて≫瀬戸や久宝を逃走させた、と。





だが、それはかなりのリスクを伴う。
ただでさえ、逮捕された犯罪者の逃走はあってはならないことだ。
犯罪者の逃走が公になれば、警察へのバッシングは避けては通れない。
それは先程サラリーマンらしき男に叱責された一件もあるので、明確だった。








「よく脱走出来たな……」







『何故か二階堂さんと氷室さんが手引きをしてくれました』







「二階堂さんと氷室さんが脱走の手引き!?」







「はぁ!?……二階堂の奴、会ったら一発殴ってやる」






汐里の物騒な低い声が聞こえたが、一颯は聞かなかったことにする。
恐らく、彼女の一発殴ってやるは一発では済まない。
ついでに言えば、殴られるのは二階堂だけでなく、瀬戸もだ。
止めるのは一颯なのだが、止める側になってほしいと考えてしまうほど彼女は荒ぶるのが目に見えているので恐ろしい。