「氷室、動くぞ」
「はい。ですが、汐里達も何やら動いているようですが、宜しいのですか?」
「公安が動いて、捜一が動かないわけがない。例え、上から捜査を打ち切りと言われていても、汐里なら動く」
侑吾はたった一人の妹の性格を知っている。
負けず嫌いで頑固、一度決めたらテコでも動かない。
今回のこともそうだ。
神室が絡んでいることもあるが、何より彼の父親が殺されかけている。
彼の身内に被害者が出たとなれば、汐里はじっとしていない。
「……氷室。お前、汐里のことはさっさと諦めた方が良いぞ」
「……嫌です」
「俺にはアレの良さが分からん。男勝りで負けず嫌いな頑固者だぞ?」
「承知の上です」
侑吾は「此処にも頑固がいた」と、楽しげに笑いながら部下を弄り、空を見上げた。
都会の空は星が見えず、暗い。
それでも見えないところで星は輝いている。
……父は今、自分をどんな目で見ているだろうか、侑吾はそう考えずにはいられなかった。
明日日本という国に激震が走る。
それが引き起こすことは国民にどんな影響を与えるかは予想がつく。
デモや関係者に対する誹謗中傷、場合によっては犯罪に発展するかもしれない。
それは侑吾達が引き起こすと言っても過言ではない。
生前の父は正義感の強い刑事だった。
もしかしたら、妹の考えの方が父に近いのかもしれない。
それでも、侑吾は刑事としての正義よりもより多くの、未来を見据えた正義を貫く。
それは父と同じ道ではない警察庁へ進む道を決めたときから揺らいでいない。
「侑吾さん、俺はこれからもずっと何があっても貴方についていきます」
ふと、聞こえた氷室の言葉に、侑吾は彼の方を見た。
氷室と初めて会ったのは妹の彼氏としてだったが、今は己の正義に同調する仲間の一人だ。
侑吾は「忠犬だなー、お前は」と氷室の頭をガシガシと撫でたが、氷室は「俺は犬じゃないです!」と照れ臭そうにしていた。
「氷室、気合いを入れろ。大捕物が続くぞ」
「はい!」
侑吾と氷室は暗い道を歩き出した。
今はまだ暗い世の中かもしれない。
だが、未来は変えられる。
だから、明日はどんなに非難を受けても自らの正義を貫く。
これからの明るい未来を信じて――。