とあるアパートの一室。
そこには二人の男女がベッドに寝そべっている。





「ねぇ、聞こえてるの?」





女は甘えるような声で男の身体に触れるが、男はピクリとも反応しない。
無造作に放り出された手からは《何か》が滴り、床に広がる。





「だから、私は私を裏切っちゃダメって言ったのよ?」






女は男のだらしなく開けられた口に唇を重ねる。
そして、触れた唇をペロリと舐めた。
男の唇は女の口紅と同じ色に染まっている。





「裏切ったら最後、おとしてあげる」






女はベッドから起き上がると、ベッドに寝そべったままの男を見下ろす。
それに対し、男は天井を見上げていた。
全身を鮮血で染め、虚ろな目で、ただ見上げていた。
――何の感情も抱かずに。






「死の底に行ってらっしゃい」








女は笑みを浮かべると、男に手を振っていた。
まるで、男を見送るかのように。







「さてと、次を見つけないと。――あ、そういえば」





女は服を着て鞄を持つと、アパートを出た。
《次》を誰にするかを考えながら暗い夜道を歩いていたが、ふと思い出して鞄の中を漁って三枚の名刺を取り出した。
それらは昼間に貰ったもので、一枚は興味がないので破り捨て、二枚が残る。






「どっちが良いかしらね。あ、こっちはあの方のお気に入りだから止めた方が良いわね。なら、こっちね」





女は片方の名刺を手に、目を細める。
その名刺は昼間に会った刑事からもしもの時のために貰ったものだ。
《次》は彼である。





「貴方は私を裏切らないでね。――瀬戸司さん」