とあるバー。
隠れ家と言わんばかりの場所にあり、人気は疎らだった。
そんなバーのカウンターには二人の男の影があった。
一人はスーツに身を包み、如何にもエリートという雰囲気を出していて、もう一人は童顔の中性的な顔立ちをしていた。





「それで、いつやるの?」





「明日にでも。既に準備は出来ている。だが、良いのか?」






「何が?」






「お前の所の罪人、奴しか残ってないんだろう?奴が捕まれば、お前の駒は居なくなる」






スーツの男はウイスキーのロックを眺めながら、童顔の男に問う。
彼らは秘密裏に繋がっている。
本来ならば決して交わることない二人なだけに、この場を誰かに見られれば一貫の終わりだった。
童顔の男はカクテルのグラスの周りの塩に指で触れると、ペロリと舐めた。






「別に良いよ。アレはいずれ、僕にも噛みつくだろうし、ちょっとお痛が過ぎる。それよりも自分を心配したら?」






童顔の男はニヤリと笑って、スーツの男の方を見た。
彼が心配しているのはスーツの男の立場ではない、スーツの男の身内との関係を心配しているのだ。
いや、心配ではない。
童顔の男は面白がっているのだ。






「汐里か?」





「彼女が僕達の関係を知れば、怒るだろうねぇ。何せ、僕は君達の父親を殺してるんだから」








「父さんを殺したことに関しては俺を許さないし、絶対逮捕してやる。まあ、汐里に関しては元々刑事としてのやり方は合わないからな、気にしない」







「あっそ。君も難儀だよね、妹の力になりたいくせに、素直になれないなんてね」






「アイツには俺なんかの力より、彼が力になる方が良いからな」






スーツの男は少し悲しげにクスリと笑って、ウイスキーを飲み干す。
そして、椅子から立ち上がった。





「お前と協力するのはこれでおしまいだ。あとは容赦しないからな、神室」






「分かってるよ。僕らは今回だけは利害が一致したから協力関係にあっただけ。だから、逃げも隠れもしないからさっさと捕まえにおいでよ、京侑吾君」






スーツの男――侑吾は童顔の男――神室を睨むと、財布からお金を出してカウンターに置いて、店を出た。
外には部下の氷室がいて、侑吾が出てきたことにホッとしたような顔をしていた。
何せ、侑吾が会っていたのは犯罪集団のトップ、警察庁期待のエースである侑吾に何かあれば氷室のクビがどうなるか分からない。