「……俺達の仕事は犯人を捕まえることです。罪を同情で見過ごすわけにはいかない」






口を開いたのは瀬戸だった。
瀬戸は久宝と共に父と妹を逮捕することを望んでいる。
父と妹の罪と同時に、自身の警察官としての進退を問われる罪を瀬戸も犯している。
今後瀬戸はこれから犯罪者を家族に持つ元警察官、と後ろ指を指されることになるだろう。
それがどれだけ瀬戸を苦しめるかは明確だった。






「俺の父は警察官にあるまじき罪を犯しました。妹もです。俺はそんな二人を警察官として逮捕して罪を償わせると決めました。それが警察官の俺が出来ることなので」






「私の聞きたい答えにはなってないけど良いや。あーあ、日本も加害者家族に優しい国になればいいのに」






「加害者家族に優しい?」






紗綾の言葉に、一颯は頭を捻る。






「私も人から聞いた話だから曖昧だけど、何処かの国のとある事件で人を殺してしまった人の家族に手紙が届いたんだって」





「それって嫌がらせの?」






「ううん、励ましの手紙だって。日本では加害者家族を非難して追い詰めたりするけど、その国のその事件では非難するんじゃなく、加害者家族に寄り添った。どんな罪を犯した人の家族も被害者家族と同じように苦しんでるんだからって」






日本にも被害者家族に寄り添う団体があると同時に、加害者家族に寄り添う団体もある。
だが、よく耳にするのは被害者家族に寄り添う団体が多い。
それだけ日本という国では被害者家族に同情する人が多いということだ。
紗綾はカタカタとキーボードを叩きながら、一颯達の方を見た。






「私は記者だから人が食いつきそうなスクープを書きたい。でも、信憑性の無いものは書きたくない。それで辛い思いをするのは警察でも容疑者でもない、何も知らない家族だから」







紗綾の目は真っ直ぐ揺らぎのないものだった。
その真っ直ぐな目に、クスリと小さく笑ったのは汐里だった。
小さく笑った汐里は隣に座っている一颯の方を見ると、また笑った。





「……何で俺の顔見て笑うんですか?」





「いや、お前も彼女もやっぱり東雲の人間なんだなーって思ってな」






「??」






「紗綾さん、誰も傷付かずに逮捕することは難しいかもしれません。ですが、尽力は尽くします」






「分かってます。ただ、これだけは言っておきたかったから」






紗綾は汐里の姿に笑って、PCと向き合った。
その笑った姿は何処か一颯に似ていて、汐里は「やっぱりいとこだなー」と小さく呟くのだった。