「……噂だが、新参派閥の議員は七つの大罪の信者と言われている。殺された蛇山議員もそうだったらしい」
「実際、蛇山議員を殺害した養子の息子が七つの大罪の一人だったし、それは信憑性が高いんじゃない?」
一颯は逮捕された七つの大罪の一人で嫉妬の少年のことを思い出す。
彼はただ愛に飢えていただけだった。
ただ愛されて、普通に生活したかっただけだった。
それなのに叶わず、嫉妬に潰されて人を殺めてしまった。
だが、今はそれを後悔し、罪を償おうとしている。
子供でも罪を犯して償おうと思っているというのに、大人は権力を使って隠蔽しようとしている。
子供は何も考えてない、自分本意だと大人は罵る時があるが、実際は大人もそうだ。
権力を持っている辺りは子供よりも質が悪い上、経験値が子供より勝る辺りはさらに質が悪い。
「でも、その子の身の安全は平気なの?全てを話せば、きっと久宝首相はその子に危害を加える。そうなれば、その子の人生はお仕舞いよ」
そう言ったのは貴永の妻、弥生だった。
法を司るとされる弁護士である彼女だが、二人の娘を持つ一人の母親でもある。
弥生は他人の子であっても、未来ある子供の人生が狂わされてしまう可能性を問題視し、危惧していた。
「そうならない為には必ず逮捕しないといけないんです。私達の力ではどうにもなりません、どうか力を貸してください」
「叔父さん、弥生さん、紗綾。どうか、お願いします」
汐里が頭を深く下げれば、一颯と瀬戸も深々と頭を下げる。
ふと、貴永の小さな笑い声がした。
「聞いた以上は力を貸すさ。だが、必ず逮捕しろ。そうしなければ、全てが終わりだ」
久宝を逮捕しなくては全てが終わる。
一颯達の刑事としての生き方、叔父家族の人生、久宝の庶子である光生の命。
久宝にとって己に害をなす者は誰であろうとも許さない。
己が一番正しいと思う久宝ならば、人の命を奪い、人生を狂わせるのは容易いことなのだ。
「でも、良いの?久宝首相には奥さんとまだ小学生の娘がいる。その子にとっては優しい父親なんでしょ?」
紗綾は早速記事を書いているのか、PCを操作しながら一颯の方を見た。
久宝には妻と娘がいる、奴を逮捕することは妻子の人生を狂わせることを意味する。
一颯はこれまで容疑者として逮捕された者達の家族のその後の悲惨さを何度も耳にし、目にしてきた。
だが、警察は何も出来ない。
犯人を逮捕して、被害者家族の悲しみを軽減させることは出来る。
それは同時に犯人家族を苦しめることになる。
どちらかを取れば、どうかかが悲しむ。
そんなことは何度も耳にし、目にして分かっているが、選ぶべき方がどちらなのかは明確だ。