「久宝首相ってどんな人?」





一颯が問えば、貴永は詳しく教えてくれた。
一颯の父、久寿と久宝は同じ政党なのだが派閥が異なり、久寿がいるのは古くから政治に関わる家の生まれが多い古参派閥で、久宝がいるのは一代で政界へ乗り出した新参派閥。
表立っての派閥争いは目に見えないが、お互いをよく思ってはいないようだ。





選挙後に総理大臣を選出する際、最初は大臣経験があり、祖父が総理大臣を経験したことから党内では久寿を押す声が多く上がった。
だが、それを新参派閥が良しとせず、久宝をごり押しした。
古参にも意地がある、新参にだけ大きな顔をさせるわけにはいかなかった。
その結果が久宝を首相に、久寿を官房長官の立ち位置へと据えた。








「久宝首相は何故政界に?政界へ来る前の経歴は知っているのですが、どうも納得が行かなくて」







汐里はスマートフォンをテーブルに置いて、鞄から持参した久宝の調査報告書を取り出してスマートフォンと並べて置いた。
都内の進学校を卒業後、国立大へ進学。
国立大在学中に海外への留学経験もあり、高校、大学、留学先での成績は優秀で常にトップ。
大学卒業後は一般企業に就職した。
――ことになっている。






「それは私も同感だ。久宝首相の経歴はどうもきな臭い。で、もう一度聞くが、君は私や妻と娘に何をして欲しいんだ?」







「久宝首相の黒い疑惑と警察との癒着を公にして欲しいのです」






「なるほど。フリーの記者である娘が記事を書いて公にし、久宝首相が法的手段に出れば弁護士の妻が動く。だが、久宝首相の国民からのイメージが良すぎる。何処まで国民が信用するか……」






「今、久宝首相の息子が警察に勾留されています。彼から全て話して貰えばいい、七つの大罪との関係も子に対する虐待も」






汐里の言葉に、貴永は驚いていた。
久宝には娘しかいないと言われていて、息子がいることは初耳だったからだ。





「久宝首相の息子?もしや、庶子?」





「ええ。十五歳になる息子がいて、その息子は久宝首相の命令で行った犯罪で逮捕されました」






一颯は内心、「秘匿義務違反……」と思うが、口には出さない。
彼女が言わなければ、きっと一颯自身が話していただろうから。
それに、恐らく汐里は規則違反を既に恐れていない、
彼女は今回の事件を何がなんでも解決しようとしている。
既に神室を逮捕するためには手段を選べない範疇に到達している。