「それで詳しく話して貰おうか、一颯」





叔父である貴永は妻、弥生と二人の娘と東雲の家から少し離れたマンションで暮らしていた。
上の娘の紗綾(さや)は一颯よりも二つ下で、下の娘の真礼(まあや)は未希と同い年だ。
広いリビングには一颯達と叔父夫婦、上の娘の紗綾がいる。





「その前に何で紗綾がいるの?叔父さんと弥生さんだけに話があるんだけど」






「ああ、そういえば紗綾の仕事言ってなかったな。紗綾は大学卒業してから海外でフリーの記者をやっててな。今、丁度帰国中なんだ」






貴永の説明で納得がいった。
彼の言っていた知り合いのフリーの記者はどうやら紗綾のことらしい。
一颯は多忙な日々を送っていたせいか、今従妹が何をしていたのかも知らなかった。
ちなみに真礼が今、看護系の専門学校に行っていることを一颯は知らない。





「一颯君、多忙なのは分かるけどせめて従妹のことくらい把握してようよ」





「ごめん。でも、何で海外でフリーに?」






「日本国内だったら、東雲の名前が有名すぎて仕事にならないから」







「あー……」





従妹の言い分に、一颯は心当たりがあった。
東雲の名前が記者としてやりづらいことは一颯にもよく分かる。
良くも悪くも東雲の名前は有名すぎる。
東雲の名前に向けられるのは善意だけではない、悪意もやっかみも向けられるのだ。





「それで、私達に何をして欲しい?」






貴永の視線は一颯から汐里へ向けられた。
叔父は最初から自分達に用があるのは甥ではなく、甥の先輩にあたる汐里であることを見抜いていたようだ。
さすがは切れ者と言われる久寿の秘書をしているだけある。
汐里は上着の内ポケットからスマートフォンを取り出すと、二階堂から送ってもらったデータを貴永に見せた。






「これはうちの解析班が調べ上げたものです。……所謂久宝首相の黒い疑惑です」






久宝の黒い疑惑に関して貴永達は驚くと思っていたが、予想に反して彼らは落ち着いていた。
寧ろ、何処か納得しているようにも見える。
叔父達の反応に、一颯の方が驚いた。




「驚かないの?」





「今更って感じだからな。一般的には誠実で国民の意見を良く聞き、国民に寄り添う総理大臣と思われがちだが、実際は真逆だからな」






貴永は不愉快そうに顔を歪めていた。
叔父は父と同じく、あまり他人の悪口を言うようなタイプではない。
そんな叔父が心底不愉快そうな顔をしていることから、久宝は七つの大罪の傲慢と呼ばれるにふさわしい性格の持ち主なのかもしれない。