「瀬戸署長に七つの大罪への関与を任意で聴取したいが、生憎捜査は打ち切りと言われている」
「それは父が圧力をかけたからですよね。ですが、聴取ならまだしも打ち切りの件は俺にはどうにも出来ません」
「そこに関してはお前よりも上に顔が利く奴がいる」
汐里はニヤリと笑って、一颯の方を見た。
その笑みに、司馬は実の姉である汐里の母を重ねて、「こういう時の汐里は姉さんそっくりだな」と顔をひきつらせていた。
良くも悪くも汐里は両親の血をしっかり継いでいるようだ。
東雲の名を利用するのは嫌いだが、捜査のためと割り切りつつあるせいか、一颯は小さく息を吐いた。
「今度は何をすれば?」
「東雲に顧問弁護士はいるか?」
「はい。父の弟、叔父の奥さんがうちの顧問弁護士になってます」
「東雲の中で誰でもいい、フリーの記者と知り合いの人はいないか?」
「それは分かりませんけど、叔父のネットワークを使えば一人はいるかもしれません」
「さすが、東雲家だな。欲しいものはすぐに手に入る」
汐里は満足げな顔をする。
この日本という国で、東雲の名を使ってどうにもならないことはない。
一颯がこの世に生を受けてからそう思ったことは数知れず。
そんな東雲の名を継ぐ覚悟は一颯にあるかと言われれば、自信がない。
だが、今回父が重傷を負って思った。
やはり、自分は――。
「よし。二階堂、調べたデータを全部私のスマホに送っておいてくれ」
「おけー!京以外には解けないパスワードをかけて送っておく。んで、一回でもミスったら全部添付データが消えるウイルス付けとくね」
「……私が一回で解けるパスワードにしてくれよ」
「おけおけ!」
二階堂は軽いノリでPCと向き合う。
軽いノリなのが気になる上に、汐里にしか解けないパスワードとはなんだろうか?
一颯はそんなことを考えつつ、叔父である貴永に連絡を取っていた。
幸い貴永と妻で顧問弁護士の弥生のこれからの予定は空いており、弥生の知り合いにフリーの記者がいた。
「叔父達にアポが取れました。今、自宅にいるようなので向かいましょう」
「よし。行くぞ」
一颯は瀬戸と共に汐里の後を追う。
彼女がやろうとしていることは大体見当がついている。
だが、それは一種の賭けに近い。
この賭けが失敗すれば汐里だけでなく、一颯達の警察官としての人生が終わる。
それでも、一颯は汐里の力になろうと思った。
相棒として出来る最後のことになったとしても――。