「上の命令だ。捜査の打ちきり、それが決定事項」
署に戻った一颯達は捜査一課の課長、司馬の所に来ていた。
久宝の捜査継続と署長の黒い疑惑の捜査についての直談判だったが、見事に却下された。
捜査一課の課長は汐里の叔父でもある人で、性格は姪の汐里よりも気さくで接しやすい。
だが、汐里に似て頑固でもある。
「上の命令ってちゃんと説明はあったんですか?無かったのなら私は納得しません。それに、浅川の父親の殺人未遂に関しても何故捜査しないんですか」
「説明はないが、納得しろ。東雲官房長官の事件に関してはまだ捜査本部が立ち上がってないからだ」
「「……こンの頑固者が」」
姪と叔父が火花を散らしている姿に、一颯は呆れてものが言えなくなった。
父親が殺されかけた以上、一颯も捜査を行いたい。
だが、上がこうではなかなか捜査を行えないのが目に見えている。
すると、司馬が立ち上がったかと思えば、汐里の首根っこを掴む。
「汐里、ちょっと来い。浅川、瀬戸もだ」
司馬が汐里を名前で呼ぶのは珍しい。
だが、こういう時は大抵温厚な司馬が怒っている時だ。
それか、どうにか宥めようとしている時のどちらかだ。
一颯は瀬戸と共に首根っこを掴まれて司馬に連行される汐里の後を追う。
連行される汐里は借りてきた猫のように大人しい。
いつもなら暴言と共に暴れるというのに。
もしや、司馬は本当に激おこなのかもしれない。
それを察した汐里は大人しくして、少しでも難を逃れようとしているのだろう。
……いや、汐里の性格上難を逃れるなら暴れる一択だ。
つまり……。
「……お前、少しは上からの目を気にしてくれ。キョウさんに似て、お前は怖いもの知らずか」
司馬は汐里の首根っこを離すと項垂れた。
一颯達が司馬に連れられてきたのは二階堂のいる解析班で、此処は変人の集まりというレッテルが貼られているので人の出入りがあまり無い。
おまけに≪何か≫あっても、二階堂が趣味で作り出した発見器で見つけられるのだ。
「ふん。捜査一課の課長とあろう者が室内に盗聴器を付けられるなんて信じられない。……で、どの辺に付けられてるんだ?」
「んー、司馬課長のデスクの上にある家族写真が入った写真立ての裏」
汐里の問いに答えたのは二階堂だった。
二階堂はPCを操作すると、先程の汐里と司馬の会話が再生される。
ちなみに司馬はというと、「うちの家族の裏に盗聴器とは……」と愛妻家で子煩悩な彼は家族の写真の裏に細工をされて怒りに震えていた。