「どちらにせよ、機密情報の漏洩は許されることじゃない。よし、一発殴らせろ」





これまでずっと黙って話を聞いていた汐里は腕をぐるぐると回していた。
まるで、準備運動のようだ。
一颯はそんな汐里を「まだ止めてください」と制止する。
まだ、ということは後々殴って良いということなのだが、彼自身はそんなつもりで言ったわけではない。






「どうしましたか、篁さん?」






ふと、一颯は何かを考え込む篁の姿が目に入り、声をかけた。
だが、彼女は「何でもありません」と首を横に振った。
彼女は何かに気付いた。
それに気付いたのは一颯だけでは無かったようで、汐里も怪しむような目で彼女を見ていた。




「……篁さん、一つ言っておきます」





「何でしょう、汐里さん?」






「私は公安が嫌いです。目的のためには手段を選ばない。違法であっても目的を最優先させる。……例え、それが人の命がかかっていることだったしても、平気で行える公安が大嫌いだ」





ストレートな物言いだった。
確かに汐里に限らず、捜査一課の同僚達は公安を毛嫌いしている。
現に一颯に苦手意識がある。
すると、篁は小さく笑った。





「奇遇ですね、私も捜査一課が嫌いです。刑事の花形だか何だか知りませんけど、正義を振りかざして、何様って感じです」





こちらもだいぶストレートな物言いだった。
捜査一課は刑事ドラマでは当たり前ように主役として扱われることが多い。
警察=捜査一課と捉える人が少なからずいるだろし、正義を振りかざしていると言われても警察は正義でなくてはならないのだが……。
等と一颯が思う中、目の前では未来の義理の姉妹が火花を散らしている。





「大体、汐里さんは彼の教育係なんですよね?こんなことになるなんて、監督不行き届きではないですか?」





「こいつの仕出かしたことは私の監督不行き届きなのは認めよう。だが、そのことをアンタに言われる筋合いはない」






「……本当に貴女は侑吾さんの妹なんですか?性格違いすぎません?」






「正真正銘血の繋がった兄妹ですが何か?兄は猫被ってるだけじゃないですかー?」





何というか話が完全に反れてる。
一颯は二人をよそに、ポカンとしている瀬戸の方を見た。
だが、瀬戸は彼と目が合うなり、ばつが悪そうに視線を反らした。
それが一颯的にはカチンときた。