「ふーん。じゃあ、公安じゃなくなったらよりを戻すんですかね?」





瀬戸は一颯から一通り話を聞いて、そんなことを口にする。
そんなことを一颯に聞かれても分かるはずがない。
だが、仮に氷室が公安ではなくなったら汐里はどうするのだろうか。
公安嫌いだから公安の刑事である氷室も嫌っている。
それが公安の刑事ではなくなったら――。






「おい、浅川!瀬戸!何こそこそしてる!?さっさと戻ってこい!」




汐里の怒鳴り声が聞こえて、一颯ははっとして瀬戸と共に彼女の所へ戻る。
戻ったら戻ったで、汐里が氷室に威嚇をしていたので、一颯は「どうどう」と暴れる牛を宥めるように間に入った。




うちの(・・・)京がすみません」






「……浅川君も毎度毎度苦労するね」





一颯がうちの、を強調すれば、氷室の片眉が不愉快そうにピクリと動く。
二年前はマウントを取られまくっていたが、今は取り返してやろうと思う。
一颯は伊達にこの理不尽な先輩の相棒をして
いるだけあって、この理不尽な先輩とのやり取りも周りとのやり取りも慣れたものである。
まあ、大半はこの理不尽な先輩のフォローが多いわけだが、氷室に対してはマウントを取ることが多い。






「……浅川さんも大概性格悪いですよね」





「そりゃあ、あの理不尽な先輩と相棒をしてればね」





「おい、何でもかんでも私のせいにするな!馬鹿者が!」






一颯は事実を言ったまでなのに、汐里に尻をローキックされる。






「痛!?それで、何故公安が此処に?《七つの大罪》関連ですか?」






「さてね?」






一颯は尻を擦りながら氷室を見やる。
公安の氷室が此処にいるのは恐らく、色島望が《七つの大罪》がバッグにいる会社の人間であることを掴み、捜査しているのだろう。
隠すつもりがあるのかないのか、氷室は分かりやすくシラを切る。
それに苛立ったのは言わずもがな、汐里である。






「公安のことなんぞ知ったことか。浅川、瀬戸行くぞ」





汐里は一颯達を連れて管理人室に向かう。
警察手帳を見せて、管理人の男性に話を聞く。
そして、驚くべき事実が明らかになる。
そのマンションには色島望という女は住んでいなかったのだ。
要は色島望の届けている住所は偽造だったのだ。