「……お前が久宝と癒着していたのか?」





警察と久宝が癒着している可能性を考えていた矢先のこれである。
だが、捜査の打ちきりを指示できるほどよ地位に瀬戸はいない。
そうなれば、考えられるのはただ一つ。
瀬戸の父親が久宝と癒着している可能性だ。





「癒着しているのは彼ではなく、瀬戸署長です。まだ確定事項ではありませんが、今の彼なら話してくれるのでは?」





篁の犯人を追い詰めるかのような冷たい視線に、瀬戸は肩を揺らした。
篁の視線に加え、汐里の怒りを露にした視線。
それに挟まれた瀬戸は言いたいことがあるのだろうが、話せずにいた。
そんな彼を助けたのは一颯だった。






「京さん、篁さん、それでは瀬戸が萎縮するだけです。離してあげてください」





「私はこいつを一発殴りたいんだが?」





「私もです」





「俺も殴りたいです。ですが、まずは瀬戸の話を聞くべきです」






汐里達以上に瀬戸を殴りたいのは父をこんな目に合わされた一颯だ。
だが、きっと瀬戸にも何か理由があってのことかもしれない。
だから、まずは話を聞くべきだ。
汐里は舌打ちをすると瀬戸を離し、代わりに一颯が瀬戸の前に膝をつく。






「全部話せ。何があった?」






こんな時でも一颯の声は優しかった。
本当は怒りを瀬戸にぶつけたいのを堪え、冷静でいようとしていた。
それが周りから見たら痛々しく思えた。
一颯の性格は良く言えば優しい、悪く言えばお人好し。
本来なら警官としては酷く生きづらい性格をしている。
だが、優しさを忘れないお人好しの一颯だから救われる人がいるのだ。







一颯の優しい声に、瀬戸は声を詰まらせながら全てを話した。
署長である父と妹が七つの大罪の信者だったことを。
父と妹が憤怒の猿渡を自然死と見せかけて殺したことを。
妹が久宝に酷い目に合わされないように、捜査一課が今掴んでいる情報を久宝に横流ししたことを。






「俺、妹のこと守りたくて……。久宝は悪魔です、俺が守らなかったら妹は……」






「だとしても、秘匿義務違反だ。父が公安の手助けしていたのは何処で知った?」






「それは父が何処からか聞いたと言っていました」





「何処から?」






「分かりません……。父はそこを濁していたので」





瀬戸は首を横に降って、また俯いてしまった。
こんな弱々しい姿からは捜査一課に異動してきたばかりの頃の自信過剰の威張った姿は想像できないだろう。
もしかしたら、これが本当の瀬戸の姿なのかもしれない。
弱々しく、妹を思う優しい心を持った青年だったのかもしれない。