「お兄ちゃん、元気にしてるのかな……」
小春が慕う兄は今、警察にいる。
だが、やりたくなかった犯罪を止め、妹の身を案じている。
この兄妹は傲慢とされる久宝の血を引きながらもお互いを大切に思っている。
大切に思う兄弟の絆は血の繋がりは関係ないのだと知った。
「お兄ちゃんにもね、妹がいるんだけど、小春ちゃんみたいに俺を心配してくれてる」
一颯はしゃがんで小春の頭に手を乗せると、優しく撫でる。
「優しい妹が心配してくれてるって思うだけで、頑張れる。どんなに辛いことでも乗り越えられるんだ」
「そうなの?」
「うん。だから、またお兄ちゃんと会えるまで待っててあげてね」
一颯の言葉に、小春は大きく頷いた。
光生が罪を償って出てくるのはいつになるか分からない。
だが、小春はきっと光生を待っててくれるだろう。
一颯は小春の頭を優しくまた撫でて、立ち上がった。
が、くんとスーツの裾を小春に掴まれた。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんは恋人いるの?」
「え、いないよ?」
「私が立候補する!」
手をピンと上げた小春の言葉に汐里は「ぶふっ」と吹き出し、朝陽はΣ( ̄ロ ̄lll)という顔をしていた。
瀬戸もしんみりとしていたが、この状況に笑っているように見える。
まさかの恋人立候補宣言をされた一颯は呆気を取られるが、我に返った。
「な、何で急に?どうしたの?」
「だって、お父さんが言ってた東雲のおじ様の刑事をしてる息子ってお兄ちゃんのことでしょ?お父さんが言ってた通り、素敵な人!お嫁さんになりたい!」
パーティーの時に娘を嫁にと久宝に言われたが、まさか本人にその事を言っていたとは……。
一颯は「あのオッサン……」と毒づくが、小春の視線を感じてニコッと笑う。
可哀想だが、あまりにも年の差がありすぎるし、小春を好きだと言っていた朝陽に申し訳ない。
それに、一颯は――。
「小春ちゃん、ごめんね。こいつはずっと好きな人がいるんだ。その人しかお嫁さんにしないってよく言ってるくらい大好きな人がいるんだよ」
すると、汐里がやんわりと一颯のスーツの裾を掴む小春の手を離す。
「ん!?」と一颯が汐里を見れば、「しー」と苦笑いを向けられた。
そんな彼女の仕草に、一颯はため息を吐いた。
汐里は一颯を助けるために言っているようだが、彼には複雑に感じられる。
一颯が今、そんな想いを抱く相手がいるとすれば、それが誰なのか彼女は分かっていないなら言えるのだ。
「鈍感……」
一颯の呟きは瀬戸には聞こえていたようで、苦笑いを向けられた。
とりあえず、一颯はそんな後輩の反応にムカついたのでローキックを食らわせておいた。