「……何でいるんだよ?」
色島望が住むマンションに到着するなり、汐里は心底嫌そうな顔をする。
理由は明確。
公安の氷室が後輩を連れて、マンションの管理人室に行こうとしていたからだ。
噂をすれば影、とはまさにこの事だ。
「捜一こそ何故此処に?」
「知ってるくせに白々しい」
汐里は氷室を睨み付けた。
この二人が顔を合わせて、不穏な空気になるのはいつものことだ。
それを見て、胃を痛めるのは氷室の後輩で、一颯はもう慣れているので「いつものが始まった」という感覚だった。
だが、異動してきたばかりの瀬戸は何故こんなにも不穏な空気になっているのか分からない。
「公安?もしかして、その人が京さんの――むぐ!?」
「はい、瀬戸!ちょっと黙ろうか!?」
不穏な空気になる的確な理由を言い当てようした瀬戸の口を一颯が塞ぎ、一度その場から引き離す。
そして、一颯は小声で彼を叱る。
「何でそう言ってほしくないことを的確に言おうとするかな!?」
「自分は何も知らなかったので、不可抗力です。言ってほしくないなら事前に言うべきです」
「そうだな!俺の説明不足だな!でも、少しは察してくれ」
「で、あの人と京さんのご関係は?」
「~~察してなかったのか!?てっきり察してるとばかり……」
一颯は察しているようで察していなかった瀬戸の様子に、頭を抱える。
「で?」
「……京さんに怒られるから言いたくないけど、京さんと氷室さん……あのほくろがあるイケメンの方、あの二人元々付き合ってたんだよ」
「へぇ、意外です。京さんみたいな男勝りでガサツな人があんなインテリ優男風な人と付き合ってたなんて」
「いや、氷室さんは食えない人だから京さんと付き合ってたって言われたら納得行く。それに、氷室さんは優男ではないな」
瀬戸は知らないが、氷室は公安の刑事らしく食えない性格をしている。
初めて会ったのは二年前だが、その頃は隠していた一颯の本名も彼にはバレていた。
しかも、赤星が言うには汐里に未練タラタラらしく、相棒の一颯を気にしているらしい。
ちなみに汐里は公安嫌いなので、よりを戻す気は毛頭ないとのこと。