「何故、貴方が……」





瀬戸は動揺で声が震えていた。
ほんの数時間前まで彼は久宝のことを同僚達と共に捜査していた。
だが、久宝の息子だという光生の証言以外は久宝が傲慢である証拠は見つかっていなかった。





「君達が私のことを調べていると君の父から聞いてね、ちょっと会いに来たんだ」






久宝は人が良さそうな笑みを浮かべつつ、瀬戸親子がいる座敷へと入ってきた。
直後、瀬戸の父が久宝に蹴られ、畳の上に倒れた。
突然のことに瀬戸は動けなかったが、すぐにハッとして「父さん!」と父に駆け寄った。
咳き込む父を抱き起こし、瀬戸は久宝を睨み付ける。







「何をするんですか!?」






「使えない駒を転がしただけだ。署長という権力のある立場にいながら、警察どもに俺の存在を調べさせてるんだからな」





瀬戸親子を見下ろす久宝の顔からは笑みが消え、冷たい目をしていた。
人を見下す、そんな目だった。
久宝は瀬戸親子から麗に視線を移すと、麗はびくりと肩を揺らす。
だが、久宝の目には笑みが浮かび、怯える麗の頬を優しく撫でた。





「そんなに怯えなくて良い。俺は使えない駒には厳しいが、見込みのある駒には優しいんだ」






つまり、麗も父と同様に駒で、使えないと判断されれば痛い目に合うということだ。
父は蹴り飛ばされただけで済んだ。
だが、女の麗ならばどういう扱いを受けるだろうか。
そう考えた瀬戸は怒りが込み上げてくるのを抑えられなかった。






久宝はやはり七つの大罪の傲慢で間違いは無さそうだった。
皆表の顔に騙され、裏の顔を知らない。
瀬戸や他の同僚達もそうだったが、教育係の二人だけは裏の顔に薄々気付いていたように思えた。
もし、こんな場面に対峙したときあの二人ならどう対処しただろうか?






……いや、あの二人が久宝とこんな場面に対峙することはないだろう。
恐らく久宝はあの二人、一颯と汐里を警戒している。
警戒し、利用できないと判断している。
こうして怒りが込み上げてくるのを抑えられなくなりながらも、久宝に掴みかかることができない瀬戸とは違って――。





「俺は七つの大罪の罪人が一人、傲慢(superbia)。この世は神と我だけが人なり」






久宝は言葉に、瀬戸は唇を噛み締めるしかなかった。
正義だと思っていた父は犯罪者の駒として、正義を掲げているだけだった。
そして、自身も正義ではなくなり、駒となる。
犯罪者の、久宝の駒に――。