「悔しいな……。どれだけ頑張っても兄やアイツには私は劣るんだな……」





汐里が弱音を吐くのは珍しい。
普段は勝ち気で、自信家な性格で誰であろうと納得が行かなければ噛み付く。
よく捜査一課から飛ばされないな、と疑問に思うほど荒ぶっているときもある。
そんな彼女が兄や氷室よりも劣ると自覚し、弱音を吐いている。





縦社会の警察は男の方が有利で、女がでしゃばれば「女のクセに」「女だから」と卑下される。
優秀であれば性別など関係ないだろうに。
だが、それは警察に限らず社会の、世の常だ。
女より男が優っている。
そういう考えが無くならないから日本という国は他の国よりも女が社会的に弱い立場にいるのだ。





「俺は京さんが京警視や氷室さんより劣っているとは思えません」





「え?」






「第一、所属が違うんですから比べたって仕方ないでしょう。それに、俺は警察庁や公安より捜査一課の方が優秀だと自負してます」






一颯は東雲の名を使えば、何処でも望む所で仕事できるだろう。
だが、それを彼は望まない。
権力でものを言わせるような事は好まないし、彼は自分の力で憧れの捜査一課の刑事になりたかった。
一颯にとって、捜査一課は警察のどんなに優れた部署よりも優秀で、勝っていると思っている。





「……いや、公安はともかく、警察庁はキャリア組だから明らかに優秀だぞ」






「っ分かってます!馬鹿か?って感じのニュアンスで言わないでください!」







一颯が顔を真っ赤にして言えば汐里は呆れたように笑った。
だが、彼の言葉に救われたのか、何処か吹っ切れているようにも見えた。
汐里はハイボールを飲み干すと、一颯にグラスを差し出した。




「おかわり」





「自分で持ってきてくださいよ!まったく、面倒臭がり屋なんだから……」






そう言いつつも一颯はハイボールのおかわりの中に取りに行き、ついでに自分の飲んでいた炭酸ジュースとつまみのたこ焼きを持ってきた。





「酒だけ飲んでると体に悪いので、つまみもどうぞ」





「ありがとう。そう言えば、瀬戸は?お前、誘えって言ったのに誘わなかったのか?」






「これ、京家の恒例行事なんだから普通貴女が誘うべきですよね?ちゃんと誘いましたよ。でも、署長と妹さんと食事に行くからと断られました」






汐里は散々飲んで食べたあとに瀬戸がいないことに気付いたらしい。
彼女の瀬戸の扱いは割りと、いや、ぞんざいである。
いつかパワハラで訴えられないかと一颯はハラハラだが、彼も瀬戸の扱いはぞんざいなので人のことは言えない。