「何故俺の名前を……」





「ああ、ごめんなさい。私が一方的に知ってるだけよ。私、よく貴方のお父様の警備を担当しているの」






「え、つまり――」






「彼女は警視庁警備部のSPなんだ。名前は篁珠緒(たかむら たまお)






警視庁警備部と言えば、要人警護を主に担当するSPと呼ばれる警官だ。
女性としては背が高めの珠緒は凛とした顔立ちをしていて、ショートカットが似合う綺麗な女性だった。
歳は侑吾よりも一つ下で、出逢いは職場だという。
そこで侑吾の警察庁での所属に一颯は疑問を抱く。





珠緒が所属しているのは警視庁の警備部。
そんな彼女と侑吾が接点があり、交際することになったのであれば、侑吾の所属は警察庁の警備部の第一課である可能性が高い。
元々京侑吾という男は謎が多い人物で、汐里と一緒にいる割には一颯は彼のことをよく知らない。
知らないというより、侑吾が教えようとしないということもあるのかもしれない。





「クソ兄が……」





ふと、一颯の隣で汐里が毒を吐いてリビングから外のテラスへ出ていってしまった。
珠緒は汐里の様子に戸惑っていたが、京家の人々から「いつものことだ」と言われ、更に戸惑っていた。
そして、京家の人々の視線が一颯へと向けられる。
無言だが、言いたいことは分かった。
『汐里の所に行って、様子を見てこい』と目が物語っていたので、一颯は汐里の所に向かう。






「京さん、篁さんが困ってましたよ。何でいきなり毒吐くんですか」






「彼女に言った訳じゃない。あのクソ兄に言ったんだ……」





汐里はテラスに座って、持ってきたハイボールを飲んだ。
外は梅雨が明け、本格的な夏が始まろうとしているというのに、夜だからか涼しい。
室内がホットプレートの熱で暑いから余計にそう感じるのかもしれない。






「……浅川は気付いたか?あのクソ兄の警察庁での所属」





「あくまでも予想ですが、警備部第一課かと。それか、警備部警備企画課のどちらかかと」





「警備企画課の方だと私は思う。私は兄の妹で刑事なのに、兄の警察庁での仕事を知らない。兄の方も隠しているような気がしてた」





汐里はハイボールが入っているグラスを揺らしつつ、俯いている。
その横に一颯が座っても何の反応も取らず、話を続ける。





「それに、やけに七つの大罪やあいつ……氷室のことに詳しくてな。恐らくは捜一よりも公安や兄たちの方が七つの大罪のことを掴んでいて、久宝のことも気づいているだろうな」





捜査一課が七つの大罪との接点多いのは確かではあるが、捜査に関しては事件が起きてからなので遅れているようにも思える。
だが、公安は潜入捜査や協力者を利用して、情報を得ている。
捜査一課がようやく掴んだ情報を、公安は既に掴んでいて、泳がせているに過ぎないのかもしれない。