「ああ、久宝首相の娘さん?何か奥さんの希望で特別扱いせずに普通の子と同じように育てたいって公立の小学校に通ってるみたいよ」
スーパーで買い物を終えて、京家に向かって自宅に着くなり、汐里は母の琴子に久宝の娘のことを尋ねた。
琴子も朝陽同様にあっさりと質問に答えて、たこ焼き器にタネを入れていく。
その横では二番目の弟の宙斗と三番目の弟の竜希がそれにタコ等の具材を入れていた。
ちなみにホットプレートでは餃子ではなく、一颯と汐里が買ってきたもんじゃ焼きの具が広げられている。
あと、もんじゃ焼きが食べ終わり次第ホットプレートを綺麗にして、パンケーキを焼く予定だという。
相変わらず名ばかりの餃子パーティーだった。
「何で教えてくれなかったの……」
「何で教える必要があるのよ。総理大臣の子だからって特別扱いしないって親が言ってるんだから、捜一がしゃしゃり出る幕はないわよ」
汐里と琴子が言っている意味は噛み合っていない。
恐らく琴子は久宝の娘の警護に関してのことを汐里が心配していると思っているのだろう。
しかし、汐里が言っているのは久宝の容疑の手がかりになる人物が近くにいたのに教えてくれなかったことだ。
かといって、久宝に七つの大罪の罪人である容疑がかかっていることを琴子には言えないので、汐里は悶々とするしかなかった。
すると、玄関の方から侑吾と女性の声が聞こえた。
琴子は悶々とする汐里を放置し、玄関の方へと向かった。
悶々とした汐里に、一颯は声をかけようと近付くが、彼女の悶々とした気持ちを腹にぶつけられて呻いた。
汐里の腹へのパンチはわりと……いや、かなり痛いので出来れば受けたくなかった。
「一颯君、大丈夫?」
「京家の弟達、世の中の女の人はあんな風に理不尽じゃないことだけは覚えておいて」
一颯の周りの年上の女性はわりと理不尽だ。
それは汐里にしかり、実母にしかり。
一颯の言葉に、宙斗を始めとした汐里の弟達は「大丈夫、知ってるから」と口を揃えていた。
どうやら、一颯の周りが特殊らしい。
「あれ、もしかして、東雲一颯君?」
腹の痛みに悶絶する一颯にかけられた声。
この場にいる京家の人々は一颯が名を偽り、警察官になっていることを知っている。
だが、かけられた声は京家の誰でもない聞き覚えない声だった。
一颯が顔を上げれば、侑吾とやはり見覚えのない女性だった。