それから数日後。
一颯はスーパーでカートを押していた。
目の前では汐里と末の弟、朝陽が並んで歩いている。
カートの上のカゴの中は食材で溢れかえっていた。




「侑兄ちゃんの奥さんになる人ってどんな人なのかな?」





「分かんないけど、趣味悪い」






今日は京家恒例の餃子パーティーという名のホットプレートパーティーの日なのだが、どうやら長男の侑吾が恋人を連れてくるらしい。
汐里自身恋人がいるというのは知っていたが、どんな人かは知らない。
だが、あんな妹相手に蹴りあいの喧嘩をするような兄を好きになるなんて趣味が悪いとしか言えない。





「汐里ちゃんはいないの?彼氏」





「いないよ。仕事忙しいからね」






「だってよ、一颯君!」






振り返った朝陽に、一颯は内心どきりとした。
何故俺に話を振る?
子供というのは聡いのか、一颯の気持ちを見透かされているようで怖い。
しかも、汐里も一颯の方を見たものだから余計にばつが悪い。







「っ朝陽君はいないの?」






「誤魔化したー!えー、おれ?いるよ、好きな子なら」





「「え?」」






あっさりと答えた朝陽に、一颯と汐里はポカンとした顔をする。
一颯はともかく、年の離れた末っ子を可愛がる汐里は衝撃だったようでフリーズしているようにも感じた。
しかし、すぐにハッとして朝陽に詰め寄って容疑者を取り調べる刑事の尋問モードに入った。





「どんな子だ?名前は?住んでる所は?」





「京さん、尋問みたいに問い詰めるのは止めましょう」





スーパーの通路の真ん中でそんなことをしているものだから目立つこの上ない。
しかも、一颯と汐里はスーツ姿で朝陽はランドセルを背負っている。
お陰で「え、親子?」「でも、若くない?」「目の保養だわー」等と声が聞こえてくる。
目の保養の意味は分からないが、家族として見られているのは嬉しいようで複雑だ。






「答えなさい、朝陽」





「同じクラスの女の子!名前は久宝小春ちゃん!可愛いんだよ!」





朝陽は反抗期に入るか入らないか位の年齢なのに、素直に汐里の質問に答える。
それもそれで不安になる案件だが、それよりも朝陽が言った女の子の名前だ。
一颯は聞き違いかと思い、汐里の方を見たが、彼女も一颯の方を見ていた。






「朝陽、今久宝って言ったか?それって、久宝首相とは――」






「うん。小春ちゃんのお父さんは総理大臣だよ!」






何ともベタな展開である。
まさか、末の弟の好きな子が一颯達が捜査する犯罪に荷担している可能性のある人物の娘だったとは。
一颯と汐里は「世の中って狭い……」と項垂れた。