「京さん、そんなにキッパリ言わなくても……」
「私達の仕事は妹の保護じゃない。……ただ、何かしらの事件に巻き込まれるなら話は別だ」
汐里は椅子から立ち上がると、取り調べを終了させて部屋を出ていく。
一颯はその場を立ち会いの警官に任せ、汐里の後を追いかけた。
かつかつと大股で歩けば、すぐに彼女に追いついた。
「お前は綾部の言っていたことをどう思う?本当だと思うか」
「調べないことには何とも言えませんが、恐らく本当だと思います」
「私も同感だ。久宝公武、奴はどうもきな臭い。……世の中に善人と呼ばれる人間はいない。刑事をやっていて、つくづくそう思う」
警察官をしていれば、人の善し悪しが目に見える。
どんなに善人ぶっていても、中身は見た目では分からない。
人は追い込まれたときほど本来の人格が現れる。
普段抑えていても抑えきれなくなり、流れ出る。
一颯はペルソナと呼ばれていたときの神室にその事を思い知らされた。
自身の中にあった人を殺したいほど憎むという感情。
それは誰しもが抱く感情であろうが、誰もがそれを行動に移すわけではない。
移したら最後、破滅しかない。
だが、恐らく神室や久宝はそう言ったことも思わず、自分の思うがままに動いているのだろう。
「……とりあえず、捜査しますか」
「そうだな。その前に椎名さんや赤星に報告。公安は……どうするかな」
「そこは情報を共有しないといけませんよね。怠惰を逮捕したのは公安のお陰でもあるんですから」
「じゃあ、お前が公安に伝えてくれ。私は嫌だ」
「え、俺も嫌です。……瀬戸にやらせますか」
先輩権限で公安への連絡は瀬戸に一任された。
そのことを知らされた瀬戸は「パワハラ!」「酷い!」「人でなし!」と一颯と汐里を罵る。
縦社会の警察で此処まで先輩を罵る度胸があれば、公安への連絡など容易いだろうに。
だが、瀬戸にとっては公安への連絡の方が度胸がいるようだ。
「うるさい!うだうだ言わずにさっさと連絡しろ!」
結局最後は汐里に一喝され、瀬戸は半べそをかきながら公安への連絡をしたのだった。
これを署長である瀬戸の父にバレたら、一颯や汐里達はどうなるだろうか。
そう考えて心配したのは一颯だけだったようで、汐里は平然としていた。