「君は母親と二人で暮らしていたが、母親の死後は叔父を後見人に一人で暮らしていた。その時は父親の事は知らなかったのか?」
汐里は動揺しながらも光生を取り調べていく。
光生の話によれば死んだ母、灯子は七つの大罪の憤怒が開いていた教会の養護施設で教員として働いており、そこで久宝と出逢った。
その時、久宝は子は居なかったが既に家庭があり結ばれることはなかったが、灯子は光生を身籠り出産した。
――久宝の知らぬところで。
「母は父を恐れていたように思えます。だから、僕を隠れて産んだ。隠れて産んだことも父の傲慢振りを見れば、その意味も分かります」
「傲慢な性格には思えないんだがな……」
「それは父の外面しか見ていないから言える言葉です。あの男は人を人としてみていない、同じ考えの神室さんの方が人に対して温情が感じられる」
そんな光生の言葉に、一颯と汐里は顔をしかめる。
神室の性格を知っている二人からしてみれば、神室は人としてあり得ない人格破綻者だ。
だが、そんな神室が温情のある方だと言われるならば、久宝はどれだけの人格破綻者なのだろうか。
「あの、お二人にお願いがあります」
「お願い?」
「妹を助けてくれませんか?」
光生には腹違いの妹がいる。
庶子である彼とは違って、久宝の妻が産んだ実子だ。
その妹を助けて欲しいとはどういう事だろうか。
一颯は汐里と顔を見合わせると、光生を見た。
「助けて欲しいとは?」
「あの男は利用できるものは利用する。妹もいつかは利用される。そうなれば、僕のように犯罪の道へ引き込まれるのが目に見えている」
「そういえば、前にパーティーで会ったとき、娘を俺の嫁にって勧められたな。……断ったけど」
「仮に妹が貴方の妻になれば、間違いなく警察官という立場を利用させられます。……妹には僕と同じ道を進んで欲しくないんです」
光生は頭を下げて、妹の保護を一颯達へ懇願する。
だが、妹を保護するには何かしらの理由がない限り行うことはできない。
しかも、一颯達が相手にしようとしているのは国民から絶大の信頼を受ける総理大臣。
もし、逮捕して偽りだった場合、バッシングを受けるのは警察である一颯達だ。
かといって、調べない限りはクロかシロか分からない。
「妹さんの保護は出来ない」
光生の表情が曇る。