「公安なんぞ知ったことか」





汐里は盛大な舌打ちをして、そっぽを向く。





「瀬戸、良い忘れてたが、京さんの前では公安の話はNGだ」






「何故です?」






「それは元カレが――いだだだだ!髪!髪が抜ける!禿げてしまう!?」






また余計なことを言おうとした一颯に、汐里の鉄槌が下る。
先ほどは座席を蹴られるだけだったが、今度は後ろから髪を引っ張られるという直接的な鉄槌が来た。
引っ張られた所だけ髪が抜けて、剥げてしまうのではないかと錯覚するほど汐里は彼の髪を本気で引っ張っている。





「お前、この二年間で本当に良い性格になったな」






「貴女といれば、こうなりますって」






髪を離してもらい、一颯は引っ張られた所に触れた。
そして、「髪は?ある。禿げてないな」と確認してホッと息を吐く。
瀬戸は本気でこの二人の先輩に呆れていた。
やっていることが本当に漫才のようで、緊張感がなくて刑事らしくない。




「……この二人の下でやるのキッツ……」






瀬戸の呟きは一颯と汐里にもしっかり聞こえていたが、そこは聞こえないふりをする。
一颯と汐里からしても、瀬戸の教育係はキツイ。
プライド高い。父の権力頼り。ヘタレ。
癖が強すぎて、正直言って一颯に教育係を宛がった署長を恨みそうだった。
いや、恨んでいる。





「瀬戸、とりあえず色島望が住むマンションに向かってくれ。管理人や近隣住人にに話を聞く」






「了解です……」






あからさまにテンションが下がっている瀬戸に、汐里は後ろから座席を蹴った。






「シャキッとしろ、馬鹿者!刑事たるもの感情を表に出すな」






「それ、瀬戸も貴女には言われたくないと思いますよ」






一颯の言うことはもっともだ。
この車内の中で一番感情が表に出ているのは汐里自身で、先ほどから理不尽にキレまくっている。
一颯の呟きに、汐里は眉毛を吊り上げて彼の耳を理不尽に引っ張る。
車内に一颯の悲鳴が響き渡り、やはり瀬戸は呆れるしかなかった。