「光生君、これは君のしたこと?」






その頃、未希は光生と話をしていた。
光生は口を開くことはあまりなく、未希の問いに無言で頷いていた。
今回の問いも無言で頷くだけだった。





「自分の意思?」






未希の問いに、光生は首を横に振る。






「誰かに命令されたの?」






これは先程本人の口から≪あの人≫という人物の命令で、このようなことをしたことは分かっていた。
だが、もう一度確認して、光生の意思が無いことを確信に変える。
未希は光生がずっと持っているPCを指差して、また問う。






「今の状況はそれで操作したの?」






「……そう。此処の設備をハッキングして、擬似的に火災が発生したことにしてる。スプリンクラーは止めてるけど」





「ハッキングって……。犯罪なの分かってる!?」






黙って話を聞いていた蘭子が声を荒上げれば、光生はびくりと肩を揺らす。
未希は蘭子を宥めて、「大丈夫だから」と光生の不安を取り除くように優しい声をかける。
すると、鈴がなるような通知音が聞こえた直後、他の客が騒ぎ始めた。





「おい、これって七つの大罪の事件らしいぞ!俺達、殺されるのか!?」






未希は聞こえた声の方を見ると、客の一人がスマートフォンを見て騒いでいる。
それにつられるようにして、他の客がスマートフォンでその情報を見てパニックを起こす。
七つの大罪の犯罪は多くの死者を出している。
今の状況がその七つの大罪が起こしたことだと分かれば、パニックになるのも当然のことだ。





「今の通知音って≪pigritia ludum≫の?」






「何それ?」






「蘭子、知らないの?私はやってないけど、カタツムリがイメージキャラクターのアプリで、リアルな体験が出来るって今大学で――」





そこで未希はとあることに気付く。
蹲る光生の手首にあるカタツムリのタトゥー。
それに誰かに命令されて起こした今回の事件。
だが、その前に「命令ばかりしていないでお前がやれ」と誰かに言われたと言っていた。
命令ばかりしていないで、その言葉がどうも引っかかる。






「そういえば、最近逮捕されてる容疑者は≪pigritia ludum≫で命令されて事件を起こして、そのアプリには七つの大罪が関連してるって噂を聞いたわ。あ、秘匿義務違反……」





「蘭子、今はそれ無視して良いよ。私がお父さんにでもお兄ちゃんにでも頼んでどうにかするから」






「東雲家凄い……」






感心する蘭子をよそに、未希の中で一つの結論が導かれた。
兄が追っている七つの大罪のことが気になり、未希は調べたことがあった。
七つの大罪には各罪にモチーフとなる動物がいて、その中にはカタツムリがあった。
光生の手首にあるタトゥーと同じだ。