同時刻。
一颯は汐里達と共に≪蝸牛≫の自宅マンションに来ていた。
しかし、自宅に引きこもっているはずの≪蝸牛≫こと綾部光生の姿はなかった。
「引きこもりじゃないのかよ!?」
赤星はガシガシと髪をかきむしり、苛立ちを露にした。
綾部光生は母を亡くしてから他者との関わりを一切遮断し、買い物も全て通販を利用していた。
伯父を後見人に一人暮らしをしているマンションはインスタントラーメンやコンビニの弁当の容器で埋め尽くされている。
「弟達が成長期にこんなの食べてたら、拳骨だな」
「……あまり身体に良いものではありませんからね」
汐里は空いた弁当の容器を拾い上げ、険しい顔をしている。
彼女には綾部光生と似た年頃の弟がいる。
そのせいか、重ねてしまっている部分があるのかもしれない。
すると、一颯のスマートフォンにメールが届いた。
宛名は妹の未希。
未希は多忙な兄を気遣い、余程の用件でなければ日中連絡を寄越さない。
そんな妹が寄越したということは余程の何かが起きたときだ。
「は?」
「どうしたんですか?」
一颯のすっとんきょうな声に、汐里と瀬戸が彼のスマートフォンを覗き込む。
プライバシーなど皆無だが、一颯はそんなことを気にしている場合ではなかった。
未希からの連絡はかなり危険なモノだったのだ。
「何で未希が≪蝸牛≫のことを……」
「一先ず未希ちゃんのいるカフェに向かうぞ。椎名さん!赤星!あと、公安二人!×○にあるカフェに至急向かう!そこに≪蝸牛≫がいる!」
汐里が椎名達に言っている間に、一颯は部屋を飛び出していた。
未希が七つの大罪の怠惰と思われる≪蝸牛≫こと、綾部光生と共にいる。
そして、カフェに閉じ込められているという。
もし、これが七つの大罪の起こした事件ならば未希が、他の一般人が危険だ。
「未希……」
妹は昔から聞き分けが良い子で手のかからない子だった。
だが、それと同時に自分を犠牲にする時があった。
恐らく未希は記憶にないだろうが、未希は他人を助けようとして生死をさまよったことがある。
今回も誰かを助けようとして、自分を犠牲にしかねない状況だ。
頼むから無事でいろ……。
一颯にはそう願うことしか出来なかった。