「京汐里さん、だっけ?」
「そうそう。一颯さんと京さんのバディって捜査一課でもナンバーワンって言われるくらい検挙率が良いみたい。何より、イケメンと美人だから目立つ目立つ」
「刑事が目立って良いのかな……」
「さあ?」
「お二人は刑事さんなんですか?」
ふと、少年の声がした。
声がした方に顔を向ければ、中学生くらいの少年が未希と蘭子を見ていた。
その瞳は少年らしい輝いたものではなく、暗い闇を落としていた。
「私は違うけど、こっちのお姉ちゃんはそうだよ。どうしたの?」
「……僕を助けて」
「え?」
少年の目に涙が滲んだかと思えばカフェの照明が落ち、けたたましいベルが鳴り響く。
直後、店頭の防火シャッターが降り、店内は非常灯の明かりだけになる。
突然のことに、店内はパニック状態になった。
「な、何!?」
「僕は悪くない……ちゃんとやれた……」
「君、何か知ってるの!?」
蘭子が少年の肩を掴めば、少年の顔に恐怖がうかんで蘭子を突き飛ばした。
未希は尻餅をついた蘭子を抱き起こして、少年を見た。
彼は身体を丸めてカタカタと身体を震わせている。
ふと、未希は少年の上着の裾から一瞬見えたモノに気付き、彼に近付く。
「み、未希!?」
「大丈夫。ねぇ、君、名前は?」
未希は少年を刺激しないように優しく声をかける。
視線を合わせて、優しく微笑む。
少年は怯えながらも小さな声で、「綾部光生……」と呟く。
未希も自分の名前を名乗って、光生の隣に座った。
「聞いても良いかな。さっき僕は悪くないって言ってたけど、君はこの停電と防火シャッターが降りたことの原因を知ってるの?」
「≪あの人≫が命令ばかりしてないで、お前がやれって……。≪あの人≫はいつも僕を邪魔物扱いする……。だから、生きてることに疲れちゃったんだ……」
光生は更に身体を丸めてしまった。
まるで、殻に閉じ籠るカタツムリのようだ。
未希は先程見えたモノではなく、手首の所にあるタトゥーを指差した。
殻から顔を出したときのカタツムリをイメージしたタトゥー。
もしかしたら、今兄が追っている事件に関係しているかもしれない。
「これってタトゥー?」
「うん。僕は罪人だから……」
「≪あの人≫に入れられたの?あと、その袖から見える痣って……」
未希が言おうとしていることに気付いた光生は無言で頷く。
未希は蘭子に光生を任せて、スマートフォンを取り出す。
ディスプレイには兄の名前があり、今の状況をメールで打ち込んで送った。
助けて欲しかった。
未希自身や他の客をではない。
この小さく震える少年を助けて欲しかった。
彼しか知らない恐怖の対象から。