「一つ良いか?うちの瀬戸はそのアプリをインストールしたが、スタート出来なかったらしい。理由はあるのか?」





すると、汐里が瀬戸の過ちを口にしつつ、氷室に問う。
余計なことを、と一颯は思った。
だが、汐里の性格を思い出して、その考えはすぐに消えた。
彼女はぶっきらぼうで短気で癇癪を起こすが、決して仲間を見捨てることはない。
これは彼女なりの瀬戸を守るための行動なのだ。





「うちの捜査員も捜査のために試しにインストールしたが、スタート出来なかった。理由は分からない」





「なら、仮にインストールしたことで捜査の情報に漏洩しているのであれば、漏洩をさせたのはうちの瀬戸だけではないということになるな」






汐里はしてやったりと口角を上げる。
捜査一課の情報も漏洩してはまずいものだが、公安が扱う情報は捜査一課のものよりも重大なものが多いはずだ。
言えば、国家の治安に関わりかねないものもある。
そんな情報が過激派の犯罪組織の手に渡ったのであれば、ただ事ではない。





氷室は汐里の誘導尋問に、舌打ちをする。
もしも、捜査の情報が漏洩していたら瀬戸や捜査一課に全てを擦り付けようと思っていたのだろう。
だが、そこは汐里の方が上手だ。
誰よりも氷室の性格を知り、誰よりも公安のやり方が嫌いな彼女だから成せたことなのかもしれない。
それによって、瀬戸が少しばかりだが救われたのは言うまでもない。





「情報漏洩に関しては今はどうでも良い。それに、七つの大罪のことだ、警察の中にもスパイを送り込んでいる可能性がある。そうなれば、筒抜けも筒抜け。手遅れだ」






「君がスパイである可能性は?京さん、君は七つの大罪と多く接触しながらも生き延びている。それは仲間として守られているからではないのか?」







氷室が黙ったかと思えば、今度は重原が出てきた。
この男は椎名と因縁があるせいか、彼の後輩である汐里と赤星を毛嫌いしている。
確かに汐里は七つの大罪との接点が多い。
だが、それは彼女だけではなく、一颯にも言えたことだ。
もっと強いて言うならば、捜査一課自体が七つの大罪との接点が多い。
そこに気付かず、しゃしゃり出てくるとは重原も優秀と言われる公安とは思えぬほど浅はかである。





すると、室内にバンっと机を叩く音が響く。
音の出所は言わずもがな、汐里である。
汐里はゆらりと立ち上がって、ゆっくりと重原の方へ近付いていく。
そして、重原の胸ぐらを掴み上げた。
縦社会の警察ではあり得ない階級上への無礼だが、そんなことを気にする汐里ではない。