「まあ、そのゲーム開発もお得意のハッキングで得た知識で作ったものみたいだがな」
「ハッキングされた側はハッキングの跡を追いかけて、罠にかかる。せっかく、作ったデータはおじゃんって訳か」
「そうなれば、データは残っていないから復元するのは時間がかかる。その間にハッキングで盗んだモノを売れば、金儲けには丁度良いな」
金儲けには丁度良いかもしれない。
だが、ハッキングは犯罪だ。
ましては人が開発したものを盗んで、売ったのであれば盗用になりかねない。
それなのにも関わらず、警察に被害届が出ていない所を見るとハッキングの跡ごとデータが消えているせいで、犯罪の立証が難しいからだろう。
氷室の説明に、赤星と椎名が納得したように頷いていた。
「≪pigritia ludum≫のアプリも本当はただの出されるミッションをクリアして行くだけで、何の面白味もないものだった。だが、≪蝸牛≫によって、現実的で非現実的なアプリへと変えられた」
「現実的で非現実的なアプリ?」
「このアプリはインストールした時点でスマホの持ち主のデータが開発者、つまり、≪蝸牛≫に自動的に流れるようになってる」
「え。それってつまり、スマホを乗っ取られているのと同じなんじゃ――」
氷室の説明を聞いて、一颯達の視線が瀬戸へと向けられる。
瀬戸は妹に勧められて、このアプリをインストールしている。
つまり、≪蝸牛≫には瀬戸の個人情報が筒抜けということ。
いや、瀬戸の個人情報だけではない。
瀬戸のタブレットに入っている全てが筒抜けだ。
――捜査に関係する全ても。
「瀬戸、アプリが入ったタブレットは?」
「さ、最近充電の減りが速いから充電中です。デスクに置いてあります」
事の重大さに、瀬戸の顔面は蒼白だ。
これまでに逮捕されているアプリ関連の容疑者達もこのアプリをインストール後、極端に充電の減りが速くなったという。
それがもし、乗っ取りによるものだとすれば納得が行く。
一颯は頭を抱えたくなったが、公安の手前どうにか堪える。
「……瀬戸、後でお説教だ」
「はい……」
場の空気で察した公安の視線の痛さから、一颯は瀬戸にそう告げる。
だが、この事に関しては瀬戸に非はない。
一颯が瀬戸に聞きたいのは妹の麗に関してだ。
このアプリを麗が瀬戸に勧めてきたということは犯罪に巻き込まれる可能性がある。
だとすれば、危険だ。