一颯のブチ切れ後、捜査一課と公安はお互いの持っている情報を交換した。
捜査一課はこれまでの七つの大罪関連の容疑者の情報と事件の内容を、公安は七つの大罪関連の情報全てとアプリの情報を。
それによって、いくつか分かったことがあった。
まず、今回の事件の容疑者は七つの大罪、怠惰である可能性が高い。
公安が掴んでいる情報によれば、怠惰は天才ハッカーとして公安にマークされている人物の中にいると思われる。
そのマークしているハッカーの中でもアプリ関係にハッキングをしている人物は一人だけで、ハッカーとしての通り名は≪蝸牛≫。
「≪蝸牛≫?」
「そう。道端で見かける蝸牛はノロノロした動きをしているが、こいつは違う」
汐里が怪訝な顔をすれば、すかさず氷室が解説する。
氷室曰く、≪蝸牛≫は姿を現したかと思えばすぐに消える。
まるで、天敵から身を守るために殻に隠れる蝸牛のように。
ただし、≪蝸牛≫はハッカーなら残すことがないであろう足跡を残していく。
だが、それは≪蝸牛≫の罠で、足跡を追いかければそこは沼だ。
「こいつの足跡を追いかけた先にあるのはコンピューターウイルス。PC本体もバックアップ先のデータも全部飛んだ。まあ、それは良くあるハッカーの手口だからバックアップには更にバックアップを重ねてあるからデータには問題ない」
「……データぶっ飛べば良かったのに」
「京さん!」
氷室のドヤ顔にイラッときた汐里の小さな呟きを、隣にいる一颯がたしなめる。
「それで、その≪蝸牛≫の正体は?」
「この少年だ」
赤星は一颯と汐里のやり取りを見て、むすっとしている氷室の反応を面白く思いながら、≪蝸牛≫について尋ねる。
公安がマークしているハッカーならば、素性を掴んでいる。
上手く行けば、ハッカーは公安お得意の違法捜査の役に立つため、素性調査は抜かりないはずだ。
椎名はPCを操作すると、スクリーンに映し出した。
≪蝸牛≫と呼ばれるハッカーの正体はまだ十代前半の少年で、見た目の幼さからまだ中学生と思われる。
一颯は初めて見るその少年の目元が誰かに似ているような気がした。
だが、それが誰なのかは思い出せない。
「名前は綾部光生、十五歳。去年母親を亡くして、遠方に住む伯父を後見人に一人暮らしをしている」
大人しそうな見た目だが、賢そうな少年だった。
公安の調べによれば、中学には行っておらず、ゲームなどの製作を自己流で行っては企業へ売っているようだ。
彼が作ったゲームアプリは人気で、ゲームに疎い一颯でも分かるものだった。