翌日。
一颯は捜査一課の刑事と公安の刑事の間に挟まれていた。
彼の予想通り、捜査一課と公安の合同捜査は合同というには程遠いほど険悪なムードだった。
特に汐里VS氷室はブリザード状態で、今にも喧嘩開始のゴングが鳴り響きそうだった。
「≪pigritia ludum≫のアプリについての情報をこちらにも開示して頂きたいと言っているだけなのに、何故出来ないんですか?」
「≪pigritia ludum≫のアプリで引き起こされた事件の情報と今までの七つの大罪の事件の情報を開示して頂けたら、こちらも開示しましょう」
「何故こちらの要望は一つなのに、そちらは二つなんですか?それに、七つの大罪の事であれば、そちらの方が有力な情報を持たれているのでは?」
「七つの大罪の事件に関しては罪人の逮捕を何度も行っているそちらの方が有力な情報があると思われますが?」
「このキツネが……」
「この頑固者が……」
いや、既に喧嘩のゴングは鳴っていた。
途中まではどちらかが論破しようとしていたようだが出来ず、汐里も氷室も顔をひきつらせていた。
この二人は本当に付き合っていたのだろうか?
そう思ってしまうほどに汐里と氷室の相性は良くないように見える。
だが、一颯は氷室が汐里に未練があることを二年前に気付いている。
今でも相棒である一颯をちょいちょい睨んできている辺りを見ると、未だに未練があるらしい。
ちなみに汐里の氷室に対しての未練は微塵も感じたことはない。
「大体貴方は腹を撃たれて入院してて、退院したばかりの病み上がりでしょう?少しは大人しくしていたらどうですか」
「生憎公安は多忙でね。次から次へと捜査しないといけないことが出てくるので、大人しく休むことも出来ないんですよ。人員に余裕があると思われる捜一さんと違ってね」
氷室の言葉に捜査一課の刑事がピキリと青筋を浮かべた。
椎名と赤星に限っては今にも殴りかかりそうなので、瀬戸と他の刑事が必死に止めている。
「おや、奇遇ですね。捜一も次から次へと捜査しないといけないことが出てくるので大人しく休むことも出来ないんですよ。公安さんと違って、法の範囲内での捜査なので」
汐里の言葉に公安の捜査員がピキリと青筋を浮かべた。
呷られたら煽り返す、火に油を注がれたら注ぎ返す。
それが汐里のやり方だ。
だが、そのせいで収拾がつかなくなってしまった。
――結果。
「喧嘩の時間無駄!あと、良い大人が所属云々でうだうだうるさい!合同捜査の意味を理解しろ!」
じっと黙って間に挟まれていた一颯がブチ切れ、この場は治まった。
普段温厚そうな人間程キレると怖いのである。