「良い歳した大人がふて腐れないでくださいよ」
解析チームの所から捜査一課のフロアに戻る途中、一颯は隣でふて腐れる汐里を呆れた目で見た。
いくら汐里が、捜査一課の刑事が公安を毛嫌いしていても上が決めたことならば従うしかない。
だが、彼女は嫌なものは嫌なのでふて腐れているのだ。
一颯自身も本当は嫌だが、仕事なので割り切ることにする。
「俺、氷室刑事が苦手なんですよね……。椎名さんと似た雰囲気なのに、圧が強いというか……」
「椎名さんは元ヤンだけど、元々が面倒見のいい人だからな。氷室さんは知らないが」
「私を見るな。あいつの事なんか知らん」
一颯と瀬戸が汐里をちらりと見れば、不機嫌な目で睨まれた。
元カノなんだから知らないわけがないだろうに、どうも汐里は氷室が好かないらしい。
それなのに、彼が撃たれたときは名前を呼ぶほど動揺していた。
……女ってわからないな。
それが一颯の率直や感想だった。
「……合同の捜査会議は明日。今日はとりあえず分かってることをまとめておきましょう。まあ、公安は大体掴んでいるんでしょうが」
「だろうな。まあ、七つの大罪との接点は私や浅川の方が多いがな」
「変なところで張り合わないでください。頼みますから明日は氷室さん達に喧嘩売らないでくださいよ」
「時と場合による」
一颯は汐里の言葉にため息しか出なかった。
瀬戸は瀬戸で、「あーどうやって、乗り切ろう……」等とぼやいている。
頼みの綱は椎名と赤星だが、椎名は氷室の先輩の重原と、赤星は汐里同様に氷室と仲が悪い。
まさに捜一と公安は水と油だ。
「何でこうもうちは喧嘩っ早い人ばかりなんだかな……」
一颯の捜査一課のフロアに近づくにつれて聞こえてくる声に頭痛がしてきた。
声の主は椎名と赤星、その他の捜査員達だ。
皆「打倒公安」だの「出端挫いてやる」だの「ギャフンって言わせてやる」だのと合同捜査には程遠い言葉を口にしている。
一颯は内心、合同の意味を分かっているのかと思ってしまった。
「明日が憂鬱だ……」
一颯の呟きは捜査一課のフロアのドアを開け、「吠え面かかせてやるぞ!」と言った汐里の声にかき消されるのだった。