「何だこれ?」





一颯は瀬戸からタブレットを受け取った。
タブレットに映し出されたそれはハッキリ言って、怪しいこの上ない。
紫色の壁紙に、≪pigritia ludum -怠惰のゲーム-≫という文字が赤色で記されている。
アニメーションも可愛らしくデフォルメされてるとはいえ、カタツムリだ。
何より怠惰という単語、七つの大罪絡みと考えてしまう。





「妹がこのアプリ楽しいからやってみてと送ってきたんです。今、学生の中で流行ってるらしくて、他者との交流のためにメッセージのやり取りをしながら先に進んでいくゲームらしいです」






「瀬戸はやってみたのか?」






「それが、アプリをインストールしたんですけど、その画面から全然先に進まなくて」




瀬戸の言葉を聞いた赤星が横から手を伸ばし、一颯の持つタブレットの画面をタップする。
だが、画面が切り替わることはない。
もう一度赤星がタップしてみるが、開くことはなかった。






「何で開けないんだ?」





「妹が言うにはアプリのバグではないかという話なんですが、気になってこのアプリについてクチコミを調べてみたんです」






瀬戸は自分のスマートフォンを操作すると、クチコミが書かれた掲示板のようなものを一颯達に見せた。
そこには様々なクチコミが書かれており、良いものから悪いものまで載っている。
割合で言えば、悪いものの方が多いかもしれない。





「なになに……『いくらスタートを押しても進まない』『命令が無理難題でクリア出来ない』『本当にゲーム?犯罪じゃん』『他者との交流のために使うんじゃなくて、他者に犯罪を強制してる。メッセージを送られた人が命令を現実でこなすとか無理でしょ』――は?」






クチコミを読み上げていた汐里が片眉を吊り上げる。
瀬戸のようにスタート出来ない者もいるが、ゲームを開始出来ても犯罪へ繋がることが多々起きているようだ。
一番気にかかったのは最後のクチコミ。
『他者との交流のために使うんじゃなくて、他者に犯罪を強制してる。メッセージを送られた人が命令を現実でこなすとか無理でしょ』というもの。




「もしかして、椎名さん達が言ってる事件の犯人と今日俺達が逮捕した犯人はこのアプリを使っていた……?」





「押収したスマホを調べろ!」






一颯の呟きにハッとした汐里は瀬戸にそう怒鳴る。
瀬戸は慌てて解析チームの方へ走って行き、押収したスマートフォンを調べたが、≪pigritia ludum≫というアプリは入っていなかった。
だが、逮捕したばかりの立てこもり犯に取り調べを行った結果、≪pigritia ludum≫というアプリをスマートフォンにインストールしていた。
そして、それに届いたメッセージが原因で今回の立てこもり事件を起こしたという。