「――不運ですよね、結婚するはずだった相手が殺されて、一番仲が良い同期が殺されるなんて」
色島望から話を聞いた後の署に戻る途中の車内。
運転席の瀬戸が色島望に同情するように話し出す。
だが、助手席の一颯も後部座席の汐里もそれに同調せず、険しい顔をしていた。
色島望は総務部で働いており、大人しそうな見た目とは裏腹に男が卑下た目で見るような体型をしていた。
被害者の片山はそんな一色をそんな目で見なかった数少ない男だったようで、セクハラじみたことをされていたときに助けたことから交際に発展したとか。
才賀も色島が気を許せる唯一の同期の男だったらしく、一番仲がよかったとか。
「被害者二人は認識が本当に無かったのか?交際相手が一番仲が良い男と同期が付き合っている男だぞ。何故接点がない?」
「彼女は『お互い知ってはいるけど、興味がないみたいで』と言っていましたね。……にしても、京さん。色んな意味で彼女に負けてますよね、主に――痛い!」
一颯は余計なことを言おうとして、汐里に座席を後ろから蹴られていた。
「お前がそういう卑下たことを言うとは思わなかった。どうせ、負けてるよ!か弱さでも女らしさでも体型でも!」
「俺も男なので。あと、体型のことは言うつもりなかったんですけど……」
「目は口ほどに物を言う、だ!」
汐里はガンガンと後部座席から一颯の背中を蹴り続ける。
ちなみにこの車は公用車である。
市民の血税で買われている公用車である。
一颯は「壊れるから止めてください!」と汐里に怒鳴るが、当の本人は「壊れたらお前のせいだ!」と止めにもう一度だけ蹴って止めた。
「……この二人がうちの署の捜査一課検挙率No.1バディとか嘘だろ」
運転席の瀬戸は下らない言い合いをする先輩二人に呆れるしかなかった。
異動前に父から言われていた。
『捜一検挙率No.1バディの下につけるから刑事として多くのことを学べ』と。
だが、実際二人から学べることは不毛なやり取りだけだ。
「俺は漫才を学びたい訳じゃないんだが……」
瀬戸は早く捜査一課に異動したくて、父の権力を使うという強引な方法を取った。
捜査一課には親の権力に肖った人物が一人いるのだから自分もと思ったのだ。
瀬戸自身優秀とは言い難い刑事だが、彼自身はそれを自覚していない。
父もそれを分かっていないようだから子が子なら親も親、というわけだ。