「おい、乱心中の二人。さっさと逮捕状の請求に行くぞ」





普段短気な汐里が珍しく落ち着いている。
だが、内心は怒りを抱いており、理性で押さえつけているようにも見えた。
神室は汐里の実父、京太志を殺した男だ。
太志は一颯の恩人でもある。
そんな人を殺し、親友を死に追いやった神室を一颯はやはり許せない。






「……絶対捕まえて、罪を償わせてやる」






「神室は後だ。今は強欲の方が優先」






「……分かってます」






一颯は深呼吸をして心を落ち着けると、汐里達と共に逮捕状の請求と家宅捜索の令状の請求へと向かった。
逮捕状の請求と家宅捜索の令状はすぐに取れ、容疑者達の元へ急行する。
四件の事件の犯人は全部違うので、計六人の逮捕となった。





動機は様々。
最初の被害者は容疑者夫婦に金を貸しており、返せないなら身体で返せと妻に家政婦の真似事に加え、肉体関係を強要していたことが原因で殺された。
二件目の被害者は妻の両親を金がらみで自殺に追いやったことが原因で、復讐として殺された。
三件目の被害者は借金とDVが原因で殺された。
四件目の被害者は家族を省みず、儲けのことばかりを考える金の亡者であったことが原因で殺された。





「何とも在り来たりな犯行理由……」






「それでも人を殺すのは許されない。それに、残された人の気持ちを考えるべきだ」






瀬戸と一颯は警察車両に乗り込む母と姉を見て、泣いている少女を見ていた。
四件目の被害者の末娘だ。
末娘は関与を母と姉が否定したので、逮捕はされていない。
だが、それは酷なことだと一颯は思った。
母と姉が共謀して父ともう一人の姉を殺した。
その事実はあまりにも残酷だ。






殺された次女の柊華は母と姉が父を殺した所を目撃していて、それを一颯に相談しようとしていた所で殺されてしまった。
この点に関しては一颯達警察にも落ち度がある。
家では話せない内容を話そうとしているという柊華の置かれた状況に、一颯達は気付いていた。
ならば、時間など置かずに聴取を名目に家に押し掛ければ良かったのだ。
そうすれば、柊華は――。





「いつも辛い思いをするのは残された人だ。死んだ人は辛さは分からない。罪を犯した人も辛いは分からない」






加害者家族への嫌がらせは無くなることはない。
人が罪を犯す限り、被害者と加害者が生まれる。
被害者にも加害者にも家族はいる。
苦しむのはいつも残された家族。
これから末娘や三件目の幼い息子はきっと世間から面白おかしく糾弾され、苦しむだろう。
それでも、警察は彼らを個人的に守ってやることは出来ない。