『あの子は罪人になりきれなかった。だから、君達に託した。罪人になれない奴はいらないからね』





神室の言葉に、不快感しか抱かない。
何故こんなにもこの男は歪んでいるのか。
神室は世の中の人を見下し嫌うが、一颯には神室こそが嫌悪の対象だ。
一颯だけではない、汐里達も彼と同じ気持ちだろう。






「……何故これを送ってきた?」






怒りを抑え込んだ椎名が初めて口を開いた。
初めて電話越しの対面を果たした神室に嫌悪を抱いているのは見て分かった。
今にもキレて、一颯のスマートフォンを投げてしまいそうだった。
なので、一颯はスマートフォンを手に持って、投げられないようにする。




『少しお痛が過ぎたからお仕置きだよ。僕は強欲は殺せと言っても、贖罪を咎めろとは言ってないからね」






「贖罪を咎めろ……?っつまり、三雲柊華はこの事を浅川さんに話そうとして殺されたのか!?」






『正解。君が瀬戸君かな?……なるほど、確かに正義感が強そうな子だ』






瀬戸の声に、神室は楽しげに笑う。
楽しげと言っても嘲笑うかのような笑い方なので、無性に腹立たしい。
しかも、神室の瀬戸を知っているかのような物言いは引っ掛かった。





『さてと、君達は犯人の所に行かないとだろうし、僕はこの辺で失礼するよ』





「おい、神室!?ふざけるな!お前はどれだけ人の命を弄ぶんだ!?」






『弄んでないよ。それに、僕はただ、理性で押さえつけている本能を解放させているだけだって前にも言ったはずだよ、一颯君』






ぶつりと切れた神室との通話に、一颯は苛立ちを露にしながら近くの椅子を蹴り飛ばした。
彼にしては珍しい行動だ。
大きな音を立てて倒れた椅子を、珍しく落ち着いている赤星が直した。






「赤星、妙に落ち着いてるな?腹立たなかったのか?」





いつもは真っ先にブチキレるのは赤星だ。
そんな彼が神室との電話越しの対面に、珍しく冷静だ。
もしかしたら、一番冷静かもしれない。
相棒の気持ち悪いほどの大人しさに椎名は外を見つつ、赤星に問いかけていた。
外を見たのは雨でも降ってきたか確認するためのようだ。





「立ちましたよ。ただ、神室が本当にいたことに驚きで……。あ、今になってすっげぇ腹立ってきた」





赤星はやはり赤星だった。
冷静かと思われたのはつかの間で、直したはずの椅子を一颯同様に蹴飛ばしていた。
これぞ、赤星。
ポメラニアンみたいな顔をした狂犬とはまさにこの事である。
ちなみに蹴飛ばして倒れた椅子は椎名が呆れつつも直していた。