すると、一颯のスマートフォンが鳴った。
ディスプレイには非通知の番号が映し出されていた。
非通知は普段出ない。
だが、今回の電話は出なければいけない気がした。
「はい」
『一颯君、僕からの贈り物は届いたかな?』
「神室……」
一颯の呻くような低い声に、周りは息を飲む。
普段穏和な彼が唯一怒りを向け、憎しみを向ける相手が神室志童だ。
汐里は一颯の肩を叩くと、「スピーカーにしろ」と小声で指示する。
それに一颯は頷いてスピーカーにすると、テーブルに置いた。
『怖い声だ。汐里ちゃん、久しぶりだね。元気だった?あとの人達は初めましてなのかな?椎名玲君に赤星絢多君、瀬戸司君』
電話越しの神室は一颯がスピーカーにしたことに気付いているようで、初対面と思われる椎名達に挨拶をする。
神室は相変わらず抑揚のない、感情の読み取れない声をしている。
それが妙に怪しく思えるのも変わらない。
「お前が強欲を仕向けて、彼女達に被害者を殺させたのか?」
『それは違うよ。僕が彼女達をけしかけて、強欲を殺させたんだ』
強欲を殺させた?
意味が分からない。
一颯達が混乱していることを感じ取った神室の電話越しに小さく笑う声がした。
相手の反応を見て楽しむやり方も変わっておらず、実に腹立たしい。
「けしかけて殺させただと?被害者の中に強欲がいるって言うのか!?」
『そう声を荒上げないでよ、汐里ちゃん。強欲は被害者四人で一人として役割を担ってたんだ。四人共、金や欲に対して強欲だったからね』
被害者四人で一人の強欲。
神室の言いたいことは分かるが、何故殺す必要があったのか分からない。
ましては友人や家族をけしかけて、殺す必要はないはずだ。
だが、その必要はないという考え方は神室に当てはめてはならない。
神室は複雑な性格をしていると思われているが、至って単純だ。
人間は醜い生き物。
理性を持ちながらも本能に負ければ、罪を犯す。
そんな人間を見下す男だ。
かつてはペルソナの名で、人の数だけ人格を存在させていたが、今は神室志童の人格だけを維持させているようだ。
「何故四人を殺した?仲間だろ!?」
『やだぁ、仲間じゃなくて可哀想な罪人だよ。罪に負けて、大罪を犯した罪人』
「なら、何故嫉妬の更生を望んだ!?奴もお前の言う罪人だろう!?」
一颯はやはり神室の気持ちが分からない。
いや、分かりたくもない。
こんな仲間を平気で裏切り、殺したりする男の気持ちなど。
仲間達は神室を慕っている。
それは対峙する度に感じていたことだ。
それなのに、この男は――。