この庭には立派な桜の大木がある。図書館創設時に植えられたもので、天泣桜(てんきゅうざくら)という。



由来は――風がないのに、降る花弁からだと云われている。天が泣くから、慈雨桜(じうざくら)と呼ぶ人もいるようだ。その桜は珍しい色をしていた。大方桜は淡色をしているのに、天窮(てんきゅう)色。



図書館の守り神としてみんな大切に想っている。




「……月島」




物語の世界にどっぷり浸かっていたから初めは気づかなかったが、ようやく顔を上げた時には眉間に皺を寄せた少年が立っていた。あの桜と同じ色の瞳が少女を見下ろしている。




相変わらず感情の薄いこの少年とは、勿忘草図書館で出会った。